高山なき、16安打

 【9月28日】

 138試合目にしてAクラスが確定した。29日のDeNA戦で引き分け以上なら2位が決まる。昨季4位だから、順位だけ見れば金本阪神は2年目の進化…ともいえる。1年目がホップ。2年目はステップ。果たして来季はジャンプとなるのか。それとも、もう1年ステップが必要なのか…。

 金本知憲は大勝したこの夜の意義をどう位置づけるだろう。横浜スタジアムからバスの最前席に座って宿舎へ帰る。食事を済ませ、自室へ戻り、横になる。どこで誰といても、自問自答は尽きないと思う。今やっているチーム作りは正解なのか…。先日、金本は僕にボソッと漏らしていた。「夜、寝つけないんよ…」。これが阪神という伝統球団を預かる重圧か。心身の疲弊は相当なものだと思う。

 この夜のスタメンを振り返ってみる。野手に限ってみても、「超変革」をうたって出港した金本丸に不可欠な船員がいない。最たる申し子の北條史也はこの日、甲子園で掛布雅之のラストゲームに名を連ね、降格後の原口文仁は故障明けでリハビリ中…。唯一といっていいのか、中谷将大が1軍で奮闘しているが、やはり気になるのは昨季新人王の現在地である。

 狩野恵輔の「引退試合」を取材した前日27日、対戦相手カープの2軍スタッフから度々聞かれた。

 「今シーズン、高山くんはどうしてこうなったんですか?」

 みんな知りたい。昨季の高山俊は阪神の球団新人記録を塗り替える年間136安打を放ち、猛打賞の回数でも長嶋茂雄の新人プロ野球記録「14」にあと「1」と迫った天才である。プロ野球界でよく言われる「2年目のジンクス」なのか。それとも、何かボタンの掛け違いが起こっているのか。技術的なこと、フィーリングは当人でなければ分からないけれど、今年のデータ(共同通信デジタル)で確かめてみると、彼の打撃で明らかに昨年と違うものがある。

 左方向への安打率である。昨季は全136安打のうち、43本を逆方向へ放っていた。これを方向別(右・中・左)の打率で表せば・398。それが今年は同・238に急落している。分母(出場試合数&打席数)が違うので単純比較はできないけれど、数字だけみれば広角へ打ち分けていた昨年と違い、今年は右方向へ引っ張る比率が上がっていることになる。

 だから何だと聞かれれば、以前にも当コラムで書いたが、恥ずかしながら取材が及んでいない。当然、相手もあること。攻められ方も変わってくるし、アプローチを取材しなければならないが、とはいえ、僕の認識ではあくまで高山は非凡な広角ヒッターである。シンプルに書けば「彼らしさ」が消えてしまっているのか。シーズンを終えてから、本人にじっくり話を聞ければ…そう思っている。

 能見篤史の完投勝利、そして16安打…こんな夜に書いたら虎の戦意に水を差すかもしれない。が、高山が一度も打席に立たない試合はやはり寂しい。天才の停滞…その引き金が外的要因ならば、根が深くないことを願う。=敬称略=

編集者のオススメ記事

吉田風取材ノート最新ニュース

もっとみる

    スコア速報

    主要ニュース

    ランキング(タイガース)

    話題の写真ランキング

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス