じぶん史上最高の…

 【8月23日】

 「じぶん史上、最高の夏」-。今夏の甲子園大会のキャッチフレーズである。神戸の高校生が考えたそうだが、いい言葉だなと思った。このフレーズを最も輝かせたのは言うまでもなく、中村奨成。もう「広陵の…」と書かなくとも彼の名は立派に全国区になった。 この日、大会6本塁打の衝撃を残し「中村の夏」が幕を閉じた。僕がそうであったように、決勝戦で「7号」を見たかったファンも多いと思う。広陵は悲願を逃し、甲子園を去ったわけだが、中村の次のステージがここから始まると思うと、なんだかワクワクする。

 悔し涙で花咲徳栄の校歌を聞いた後、中村は言った。「プロの舞台に立って、悔しさを晴らしたいです」。肩を震わす背番号2を眺めながら、5年前の準Vスラッガーを思い出した。あの夏のインパクトは中村のそれと同様、鮮やかだった。大会4本塁打を放った光星学院の北條史也である。94回大会の準決勝、決勝戦を観戦したので北條のごっついスイングはよく覚えている。大阪桐蔭に悲願を阻まれた彼はどんなステージを歩むのだろうとワクワクしたものだ。

 早いもので、北條が阪神に入団して5シーズン目になる。金本知憲の期待を背負い、昨季から表舞台で頭角をあらわした彼は今シーズン苦しみながらここまできた。

ワクワクさせてほしいと期待しながら見ているのだが、突き破るべき大きな壁があるのだろう。

 絶好調でキャンプを過ごし、鳥谷敬のポジションを奪って開幕を迎えたものの、レギュラーを奪いきれなかった。個人的には、打撃が不安定でも起用し続けてほしい…と願っていたけれど、6月末に出場登録を抹消。糸原健斗の故障によって再登録されるまで20日間ほど2軍暮らしが続いた。今年はウエスタン・リーグを取材する機会も多く、ファームの関係者とよく話をするのだが、実は誰よりも北條のことをよく耳にするのだ。

 「例えばスイングの練習でも、一人だけ雰囲気が違うというか…俺はここにいちゃいけないんだというオーラがめちゃめちゃ出ているんですよ。近い将来、タイガースはこの選手が中心になるべきなんだろうと、僕らに感じさせてくれますし、実際にそうならないといけない選手だと思います」

 これは2軍打撃兼野手総合コーチ今岡真訪の評価である。2軍守備走塁コーチの藤本敦士も同じような言葉で北條の情熱を感じ取っていたし、僕の聞く限り、ファームのフロントの評価も同様だ。

 きょうの紙面では福留孝介や糸井嘉男、中谷将大の本塁打が派手に扱われると思う。でも、忘れて欲しくないのは、この夜の逆転劇は北條のヒットが突破口になっていたこと。もちろん、今季の打率・217は当人にとって不本意でしかないだろう。だから、残り32試合、レギュラーで出続ければ130ほどの打席で、昨季の成績(打率・273、5本塁打、33打点)をひとつでも越えて踏み台にしてほしい。来たるべき次のステージを「北條史上、最高のもの」にするために。=敬称略=

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