大瀬良大地の笑顔
【8月16日】
青木宣親から「藤浪はどうなんですか?」と聞かれたことは以前このコラムで書いた。WBCを控えた今年1月のことだ。都内で青木と待ち合わせたとき、開口一番そう言っていた。昨季の成績が、彼の想像する「藤浪晋太郎の本領」とはほど遠かったのだろう。もしかしたら、青木の耳にも何かしら藤浪の異変が伝わっていたのかもしれない。これから世界と戦う侍ジャパンの同僚として気になるところ。だから、挨拶代わりに藤浪の近況を確かめたのだと思う。
普段から他球団の選手やスタッフと話す機会は多い。最近は必ずと言っていいほど、藤浪のことを聞かれる。誤解のないように書きたい。彼らは冷やかしで探りを入れいるのではない。同じ野球人として、藤浪を案じているのだ。
僕はこの2カ月半、藤浪を追ってきた。ファームで彼が投げると聞けば、そこへ足を運んだ。藤浪という人間に対する純粋な興味で…。特に同世代がリスペクトする「球界の宝」が、どのように自身と向き合うのか。どんな心持ちで立ち直っていくのか。その足跡をこの目で確かめたくて1軍本隊よりも藤浪の取材を優先してきた。
この夜、感じたことがある。藤浪は幸せな男だな…と。この投球内容で、何を書いているんだ。多くの読者からそう思われるかもしれない。でも素直に感じたことなので、そのまま書かせてもらう。
最速が159キロだとか、詳細は番記者の原稿にお任せする。このコラムでは、客席が騒然となった二回に触れたい。1死後、藤浪が大瀬良大地の左腕に死球を当てたシーンである。三塁ベンチから首脳陣が慌てて打席へ駆け寄り、左翼席からは怒号が飛び交った。このとき、大瀬良は…マウンドで頭を下げる藤浪をずっと見ていた。
笑顔だった…。
気にしなくていい。彼は藤浪にそう語りかけている…記者席からはそう見てとれた。だから、試合後、大瀬良に確認してみた。
「そうですね。マウントで僕のことを心配そうに見ていましたし投手心理として、晋太郎の気持ちもよく分かるので、あそこはもう大丈夫、大丈夫…と。まったく怒る気にもならなかったですし…。彼も一生懸命やっている結果なので、何も思わなかったですよ」
オフにドジャース前田健太とともに自主トレを共にする仲間。いや…もしそうじゃなくても、大瀬良は藤浪を睨まなかったと思う。
同じ投手として、野球人として、藤浪の復活を願っている。だから大瀬良は笑った。そう感じる。
勝負の世界で「情」を嫌う人もいる。ただ、僕が他球団の声を聞く限り、藤浪の現状は球界の憂いのように思う。部外者だから分からないところもあるけれど、この先、阪神、そして球界にとって最良の道を探っていけば、少し遠回りしても、答えが見つかるような気がする。初回のマウンドだけで三度、西岡剛から激励され、ベンチへ帰れば高山俊から声を掛けられた。悔しい…と思う。けれど、踏ん張れ…。カムバックを願う「仲間」は大勢いる。=敬称略=