雨の倉敷で晴れた心

 【8月10日】

 昼前に東京を離れ、倉敷へやってきた。この時期だから予想できたことだけど、新幹線は夕方の便まで全て満席。結局、品川から羽田空港へ向かい、空席待ちで運よく岡山への便をゲットできた。

 この夜、倉敷で藤浪晋太郎が登板することは分かっていた。前もって移動便を予約すれば良かったんだけど、週間予報では中国地方の雲行きが怪しかった。超スローだった台風5号といい、出張族にとってこの夏のあやふやな天候は厄介である。2軍戦が中止なら、そのまま東京ステイ…そんなプランで朝を迎えた。前日は都内で最高気温37度の猛暑日。かと思えばゲリラ豪雨が襲ってきたり、気まぐれな空模様には頭が痛い…。

 レフト後方は青空なのに急に雨…ウエスタン・リーグ阪神-広島戦である。マスカットスタジアムの記者席で巨人戦のラジオを聴きながら、藤浪の立ち上がりを観ていた。東京ドームで梅野隆太郎が先制打を放った18時半前、倉敷では藤浪がマウンドを降りた。通り雨による10分間の中断…。気まぐれな空に水を差されてしまったけれど、背番号19は乱れなかった。中断の直前、二回に151キロの直球をカープ岩本貴裕に本塁打されていた。それでも、ゲーム再開後は隙のないボールで後続を抑え、自らリズムを生み出した。

 詳細は番記者の原稿を読んでもらうとして、僕の見る限り、自身を苦しめてきた“きまぐれな球”は見られなかった。メディアに語らない自己採点があると思うし、首脳陣の評価、ファンの見方もある。だから、できるだけ客観した僕の主観になるけれど、この夜のマウンド、投げっぷりには、昇格を迷う要素は感じられなかった。

 実は東京で梅野に聞いてきた。バッテリーを再結成する(であろう)藤浪に「どんな形で1軍に戻ってきてほしいか」。藤浪の復調を願う梅野の言葉に遠慮はない。

 「とにかくストライク先行と、強いまっすぐを取り戻して1軍に帰ってきてほしい…それが一番かなと思っています。メンタル的には、1軍のマウンドに立つとなると、またパッと(気持ちも)変わるでしょうし(倉敷では)1軍で投げる気持ちでやって、この1点は絶対にやれない…とか、すべてにおいて、結果も含め、ゲームを支配してほしいなと思います」

 打者21人に対し、初球ストライクは11度。初球から2ボールになったのは3度…この数字の捉え方は立場によって異なるが、ストライク先行も、直球の力強さも本領に近かったと思う。登録抹消された5月末のボールとは生気がまるで違う。僕の目にはそう映った。 「打者に対して何の迷いもなく腕を振って投げられるか…というところ。例え1球抜けたとしても心が動くことなく、自信を持って投げていた…そんな報告を(2軍から)聞けると思っています」。投手コーチの香田勲男は、倉敷へ向かう僕にそう話していた。さあ1軍へ…。2軍打撃兼野手総合コーチの今岡真訪は倉敷のベンチ裏で言った。「彼はここにいちゃいけない投手です」-。=敬称略=

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