「一流」の反応

 【8月6日】

 京セラドームに着くなり、懐かしい顔に会った。ヤンキース松井秀喜の専属トレーナーを務めた小波津祐一である。阪神、ヤクルトにも、小波津の治療にお世話になった選手は多く、両軍ベンチから歓迎されていた。僕も以前メジャー取材でお世話になり、今も交流がある。最近すっかりご無沙汰していたのだが、実は近々会えたらいいな…と思っていた。

 聞きたいことがあるんですよ。こちらがそう切り出すと、小波津は「また、機会があれば」と笑った。そんな冗談も魅力的なアラフィフだけど、いざ専門分野を尋ねれば、熱く持論を語ってくれる。

 この日、ウサイン・ボルトのラストランを見た。「有終の美」とはいかなかったけれど、素人なりに彼の強さを分析すると、行き着くところは体格だろう…と。今回金メダルのジャスティン・ガトリンが長らくボルトに勝てなかったのは、11センチの身長差が大きかったのだろう…と勝手に思ってきた。

 だからというわけではないが、「体格」と「一流」の関係性について、長くアスリートの体を触ってきた治療家の見解を知りたかった。やはりプロ野球では体がデカいほうが一流に近いのか…そんな疑問である。身長180センチの金本知憲は現役時代「俺に新井(貴浩)の体格(189センチ)があれば、もっといい選手になれたかもしれない」と話したことがある。野球にはそれぞれ役割があるし、2メートルの選手を揃えたって強くなるとは限らない。この日先発したヤクルト石川雅規は167センチでも現役最多の通算156勝を積み上げてきた。大柄でも、あっけなく戦力外になる選手はいくらでもいるのだから、体格の優劣が一流をはかる定規にはならない…とも言える。

 「それなりの選手を診させてもらってきたので、体を触って一流かどうかは分かるつもり。体格というより、僕が大切にするのは筋肉の反応。これは一流を見分けるとても大事な材料だと思う。山田哲人選手を3~4回診たことがあるけれど、彼の瞬発的な筋肉は凄いものがある。プロではズバ抜けて体格がいいほうでなくても、僕の観点からすると一流の条件を満たしている。ただし、体の状態を悪くして筋肉の反応が良くないままだと、いくら練習しても、いいパフォーマンスは出ない。まず、それを元に戻してやらないと…」

 小波津の話はいつも分かりやすい。その理論でいくと、今季不振の山田はどこか万全でない箇所を抱えているということか…。

 それにしても、お立ち台に上がった二人を見て嬉しくなった。伊藤隼太も俊介も180センチに満たない球界では小柄な選手である。彼らが「一流」と認められれば僕の勝手な説は崩れていくし、体格に恵まれない選手の勇気にもなる。

 虎戦士の体も診てきた小波津に聞いた。阪神には抜群の素質を活かしていない選手がいるそうだ。「あの選手が今年のような成績では本当にもったいないと思う」。この日スタメンを外れた高山俊のことである。彼の筋肉には超一流の反応があるという。=敬称略=

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