100%の自信

 【8月2日】

 ロンドンで開幕する世界陸上の主役、ウサイン・ボルトの記者会見をインターネットで見た。既に大会後の引退を表明している王者は「100%の自信がある」と語っていた。冷静に淡々と話したけれど、なかなか言えないコメントだ。少なくとも、僕が取材してきたプロ野球、プロサッカーの選手からは聞いた記憶がない。

 100%の自信…。一流のアスリートに限らない。世間のサラリーマンもそうだろうし、新聞記者だって、大一番の取材に臨むときに一度でも言ってみたい。

 ボルトといえば…今回の世界陸上で残念なことは、日本のエース桐生祥秀が先日の日本選手権で敗れ、男子100メートルの代表選考に落選してしまったことだ。王者への挑戦をモチベーションに戦ってきた桐生が、個人としてボルトのラスト舞台に共に立てないのだからショックは大きかったと思う。

 今回の敗因を語る桐生のインタビューをテレビで見たが、「足元をすくわれた感じ」という発言が印象的だった。21歳とはいえ、ジュニア世代からトップステージで戦ってきたのだから、経験値でいえば申し分ないはずである。それでも、ここぞで勝てなかった。やはり、何かしら足りないものがあったのか。そうだとすれば、本人には後悔があるのかもしれない。

 そういえば思い出した。あれは2012年、冬のこと。大阪で開催された運動記者クラブの表彰会場で金本知憲と桐生が初対面し、当時高校2年だった桐生が、その年引退した金本に「どうしても聞きたいことがあるんです」と、ぺこりと頭を下げたことがあった。

 「僕は試合になると、すごく緊張してしまうんです。緊張しないようにするためには、どうすればいいのでしょうか…。金本さんはいつも満員の甲子園で試合をされていましたが、あんなに大きな舞台で緊張しないのですか?」

 桐生からそんなふうに聞かれた金本は笑いながら、こう答えた。

 「場数。慣れだよ」-。

 なるほど。慣れか…。

 この夜もルーキー小野泰己は勝てなかった。それでも試合後に聞けば、金本は「(2軍に)落とす理由がない」と語り、投手コーチの香田勲男も「これまでも、下で(再調整)とは考えたことは一度もない」と話した。首脳陣は小野を将来のエースと見込み、勝ち星に恵まれなくとも、場数を踏ませている。当然、勝つための起用。そのうえで徹底してプロの水に「慣れ」させているのだと感じる。 プロ10戦目のカープ戦は5回2/3で114球。ここまでデビュー戦から計55イニング、951球を投げてきた。新人年から先発ローテで戦った投手でいえば、立場は違えど藤浪晋太郎が初年度に計2252球を投じ場数を踏んだ。12球団で唯一(昨季まで)5年連続で3000球以上を投げているランディ・メッセンジャーは別格としても、やはり一流とは場数を踏まずしてなり得ない域である。

 100%の自信。小野という大器がいつかそう語る日がくることを楽しみに待ちたい。=敬称略=

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