スプリングボード

 【6月17日】

 東京都知事の小池百合子をテレビで見ない日はない。以前も書いたが、小池は兵庫・芦屋出身。かつて今岡誠の後援会長を務めたという生粋の虎党だから、勝手に親近感を持っている。豊洲市場への移転問題が佳境を迎えた最近は独特の「小池語録」が耳に残るようになり、何度かその意味をスマホの辞書機能で調べたことがある。

 定例の記者会見では度々、カタカナ英語が飛び出る。ワイズ・スペンディング(=賢明な支出)やホイッスルブロワー(=内部告発者)。まあ、日常接することのないフレーズばかりだけど、近ごろは、ついついプロ野球に当てはめてしまう(職業病デス)。ちなみに、小池がちょくちょく語る「スプリングボード」という言葉は僕らの業界でも応用できる。体操の跳馬などの「踏み切り板」から派生し、ある行動を起こすきっかけとなるもの。出発点。契機…そんな意で用いられることが多い。

 実績あるベテランになるほど若い時代のスプリングボードを取材してみると、深みがあるものだ。

 星野仙一が球団副会長を務める楽天との試合は色んな角度から見応えがある。金本知憲にとって星野は、言うまでもなく03年の優勝監督であり、恩師。もう少し時計の針を戻せば、福留孝介にとっても星野は中日時代の優勝監督(99年)であり、やはり恩人である。

 当時の星野政権で遊撃手だった福留にとって、ほろ苦い記憶がある。ルーキーイヤーの99年。4月末の阪神戦(ナゴヤD)で本塁打→三塁打→二塁打の順に快音を重ね終盤を迎えたが、サイクル安打のかかる最終打席を前に交代を命じられた。中日が3点リードの終盤。あとシングル1本で新人の快挙達成である。「いけ!」。守備固めを指示された久慈照嘉(現阪神コーチ)は準備をしておらず、慌ててグラブを手にすると、闘将から激しく怒号が飛んだという。

 「個人の記録とチームの勝利、どっちが大事なんだ!」

 福留は懐かしそうに振り返る。

 「当時は自分が守れなかったんだから仕方ないですよ。悔しい思いをすることも一つだから、それはそれで良かったんじゃないかなと思う。そりゃ悔しかったから、次の日の1打席目にヒット打って『2日でサイクル達成!』と言ってね…。監督の立場になれば、やっぱりチームが勝つことが最優先でしょ。僕はそう思いますよ」

 この日、福留は慣れない左翼で素晴らしい守備を見せた。接戦で不可欠な堅守である。名手のルーツは18年前。あの悔しさが代役不要の守備力を追求する契機になったのだ。

 「若い選手でも(スタメンで)九回まで守っているかというと、そんなことないでしょ。大事なのは九回を守れていないという悔しさを持っているかどうか。そういうことを一つずつ全員が思ってやっていれば慢心は出ないし、このチームは強くなっていくと思う」

 福留の言葉に愛情がこもる。八回に適時失策した原口文仁…必ず彼はこの悔しさをスプリングボードにするはずである。=敬称略=

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