青木から藤浪へ…

 【6月13日】

 アストロズの青木宣親が日米通算2000安打を達成した。個人的にも待ちに待った節目である。前夜はニュース番組をハシゴし、一人でビールを飲みながら、快挙の瞬間に酔わせてもらった。

 こんなめでたい機会もそうそうない。今回のコラムは阪神のゲームを少し離れ、独断で僕の知る青木を書かせてもらうことにする。

 青木ファミリーには、お世話になっている。年に一度会って話をするようになって、5~6年。面と向かって、いつも驚かされるのは彼の相手を思いやる目線。首位打者3度、最多安打2度、盗塁王1度…これだけ素晴らしい実績を重ねてきた選手が、まるで傲(おご)ったところがない。天才バッターが一記者の素朴な疑問に丁寧かつ一生懸命、答えてくれる。ありがたいし、いつも頭が下がる。

 この夜、サッカーのハリルジャパンがイランでW杯の最終予選を戦った。実は今年、青木に「代表論」をぶつけてみたことがある。

 最も権威のある国際大会において、サッカーと野球の日本代表が決定的に違うのは、野球はケガ以外で辞退する選手が出ること。もちろん、国際大会の歴史が浅いことや、ホスト国の問題、開催シーズンなど、そもそもサッカーとは諸条件が異なるので、単純比較はできない。が、野球が「真の代表」で戦ったことがないのも事実。

 日本のプロ野球は代表の概念が薄いのでは?そう聞くと、青木は少し考えながら、こう答えた。

 「いや、そんなことはないと思いますよ。僕もヤクルトにいたときから、代表に選ばれるくらいの選手になりたいと思っていたし、ずっとそういう選手でありたいと思ってきましたから。今の若い選手もきっとそういう気持ちを持っていると思う。皆、アスリートとしてトップを目指したいと思っているはずですから…。え、どうなんだろう。必ずしも皆が代表に入りたいと思っていないのかな…。いや、入りたいはずですよね」

 僕が聞く限り、いつかWBCに出場してみたいという若い選手は多い。そう伝えると、青木は「やっぱり、そうですよね」と、ホッとしたように笑っていた。

 青木が侍の兄貴分であった今年のWBC。誇りを持って代表に参加した選手が阪神にもいる。藤浪晋太郎。彼は今、青木に掛けられた言葉を胸にもがいている。

 「もっと野球を楽しめよ」-。

 偉業から少し時間を置いて青木ファミリーに祝福の連絡を入れると、すぐに返事があった。青木は海の向こうで、藤浪が2軍で苦しんでいる記事を読んでくれていたようで案じていた。そして今回、彼からこんな言葉を預かった。

 「壁にぶち当たったとき、それは必ず自分に必要なことなんだと思って、まずは受け止める。藤浪は、必ず乗り越えられる」

 頭部死球など様々な危機を乗り越えた青木だから痛みが分かる。大切な後輩へ、これ以上ない激励を贈ってくれた。藤浪が表舞台から去って明日で20日。青木の偉業を思い、代表選手を欠く虎に寂しさも感じる夜である。=敬称略=

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