僕が僕であるために

 【6月10日】

 朝6時。キャリーバッグを引きながら中洲川端駅まで歩いていると、尾崎豊のポスターが目についた。雑居ビルの壁に貼られてあった「尾崎 25周忌」の告知。ファンのイベントだろうか…。電車に間に合わないのでチラ見して通り過ぎたが、「もう、あれから25年か…」と大学時代を思い出した。

 僕が20歳のとき、尾崎は亡くなった。高校の頃から彼のせつない楽曲が好きで、今でもカラオケに行くと必ずうたう。20代の後輩と飲めば「JSBとか歌えないんすか。モテませんよ」と、おちょくられたりもするけれど、3代目なんとか…いや、オッサン記者には曲目すら分からない。

 尾崎を知らない世代が尾崎を聴く。藤浪晋太郎もそうである。

 『僕が僕であるために』

 藤浪が「大好き」なMr.Childrenのアルバムから、尾崎のカバーを自身の入場テーマ曲に選んだのだ。背番号19のそれはファンもよく知っている。この日昼過ぎ、甲子園球場にそのメロディーが流れると、スタンドは大きな歓声と拍手で出迎えた。

 ヤフオクドームのソフトバンク戦を初戦だけ取材し、神戸へ帰ってきた。中洲、天神、親富孝…後ろ髪を引かれながら…いや、観たいものがあったから帰ってきた。11時前、甲子園駅に到着すると背番号19のユニホームを着た少年たちが球場へ向かっていく。そう、ウエスタン・ソフトバンク戦に先発する藤浪をみんな観たかったのだ。開放されたスタンドは内野のみ。その大半が、藤浪を心配して集まったファンだったと思う。

 6回4安打2失点。奪三振は11を数えた。いつものように詳細は虎番の原稿を読んでもらいたい。5四球だから、課題が解消されたとは言えない。取り除かなければならない右打者への制球難はどうか。ホークス2人の右打者に対して確かにまだ投げにくそうな感じではあった。でも、僕はポジティブに観察した。最速は155キロ。三回、本多雄一をすべて速球で3球三振に斬った球は素晴らしかったし、内野の連係ミスもあって失点した四回も、本多を2打席連続三振に仕留めた球も良かった。

 試合後、藤浪に聞きたかったのは主にメンタル面。制球を邪魔する“何か”を払拭する作業は進んでいるのか。本心を聞いてみた。

 「自分なりに(精神面も)良かったと思いますし、前回(5回3安打1失点=安芸)同様、思いきって投げることができました。四球が5つありましたので(見る側は)否定的な見方になるかもしれないですけど、僕の中では凄く悪い感じではなかった。今までとは違う感覚というか…。四球も、腕を振った四球でしたので…」

 ドライな言い方になるが、チームが勝つ為に、この希少な素材をどう活かせるかが大切である。来週もう一度テストがあるという。合格した場合、追試が必要な場合…首脳陣は昇格の基準をどこに置くのか。尾崎ではないけれど、藤浪が藤浪であるために必要なものを取り戻せば、事態は一気に好転すると僕は見ている。=敬称略=

編集者のオススメ記事

吉田風取材ノート最新ニュース

もっとみる

    スコア速報

    主要ニュース

    ランキング(タイガース)

    話題の写真ランキング

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス