バッシング、覚悟

 【6月6日】

 ローマのテルミニ駅でデイリースポーツのイタリア通信員・赤星敬子と待ち合わせた。日本から持参した阪神1面のデイリースポーツを見せると、「懐かしい」と喜んでくれた。99年だから、18年前のことだ。欧州サッカーが好きで若い頃はまとまった休みがあれば、イタリア、スペイン…あちこちへ飛んでいた。

 中田英寿、名波浩がセリエAに挑戦した当時、ガゼッタ・デロ・スポルトやコリエレ・デロ・スポルトなどイタリアのスポーツ紙に興味があった。だから赤星に色々聞いた。論調は日本の新聞より「はるかに辛辣」だと彼女は話していた。特に采配に対する批判は遠慮がない。日本のプロ野球では担当記者が監督を指して「辞めるべき」とは、なかなか書かない。

 当時ペルージャで中田のセリエAデビュー戦を見た。日本人が名門ユベントスとの開幕戦で2ゴール。喜ぶ中田の背後でジネディーヌ・ジダンが頭を抱える…そんな地元紙の写真が懐かしい…。

 あの、ジダンが指揮官として歓喜で目を潤ませている-。

 先週、レアル・マドリードが欧州チャンピオンズリーグを連覇した。ジダン監督は自身が黄金期を過ごしたユベントスとの決勝戦を制し、クリスティアーノ・ロナウドと抱き合った。僕なりの寸評だが、今季はリーグ戦を含めジダンの用兵に信念を感じた。長丁場を踏まえ、32歳のロナウドを度々外していた。絶対エースを休養させる…。層が厚いとはいえ、結果が伴ってこそ称えられる采配だ。メディアの批判を恐れず、年間を通し、彼の信念はブレなかった。

 京セラドームでこの原稿を書いている。阪神を指揮する金本知憲はこの夜、大胆な用兵に踏み切った。レフトに福留孝介、センターに高山俊…。金本は3日前にシャッフルを決めていた。そのワケは虎番の原稿を読んでもらいたい。

 結果として7連勝中だったオリックスに大勝した。順調なチームに変化を加えるのは勇気がいる。機能せず、この用兵で大敗していたら…。試合後、会見を終えた金本にそのあたりの本音を聞いた。

 「まあ、怖がっていたら何もできないしな…。これで、もし外野の連係でミスがあったら真っ先に(批判を)言われるだろうけど、それを気にしていたらいつまでたっても動けない。(外野陣の)本人たちには事前に伝えていたよ」

 今回の決断に限らない。今季、金本は機を見て福留を休養させる方針を崩していない。ここまで主将を先発から外した試合は1勝3敗…この数字、ともすれば批判の対象になる。それでも長丁場を見据え、勝負の秋へ…今後も40歳を温存する試合を模索していく。

 負けが込めば、バッシングは必至。取り巻くスポーツメディアで欧州のそれに最も近いのが阪神だと思う。この夜の先発オーダーは開幕から32通り目。「オーダーを固めた方がいい」。昨季そんなメディアの論調は少なくなかった。

 金本は話していた。「負ければ何でも言われるよ」。自身の信念を貫き、腹をくくる。このチームの監督は金本だから。=敬称略=

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