オープン・マインド

 【6月2日】

 1軍は千葉から甲子園へ帰り、2軍は福岡から高知へ移動した。この日、朝のことだ。西岡剛の取材で福岡に滞在していた僕は、引き続き2軍に帯同。昼前に高知龍馬空港に到着し、レンタカーで安芸へ向かった。きょう3日、ファームは安芸市営球場でウエスタン中日戦を戦う。ここで先発する藤浪晋太郎を取材するため、前日練習を見させてもらった。

 昼1時前から始まった練習は報道陣2人、観客は4人ほど…。ほのぼの感漂うホームのキャンプ地で藤浪は黙々と調整した。2軍監督の掛布雅之、コーチ陣、時折チームメートからも声を掛けられ、快活な表情でうなずいていた。

 ファームには2人の投手コーチがいる。久保康生と高橋建。藤浪について聞けば、それぞれ言葉は違うけれど、親身になっていることが伝わってくる。そして…久保と高橋はもう一人、気になっている投手のことを話してくれた。

 「技術的なことで僕が岩貞に言ったのは普遍の原理だけなんですよ。地球上では物は下に落ちる。当たり前の物理の原理を見失ってしまうと、体の使い方、投げ方がおかしくなる。絶対に忘れちゃいけないことがあるんだよね…」

 先月、不振で出場登録を抹消された岩貞をファームで預かった。対話し、メカニックの微調整にも取り組んだが、久保は「難しい話はしていない」という。引力、重力…自然原理に逆らわなくていいんだよ、と。岩貞は27日のウエスタン広島戦(由宇)で5回2安打無失点。そして、無四球。一発回答で1軍への復帰を決め、この日の日本ハム戦を迎えた。

 もう一人の投手コーチ高橋も安芸から岩貞を思いやっていた。

 「とにかく、初回ですよ。初回が彼の鬼門になっていたので…。好投した(2軍の)広島戦でもヒット2本は初回。どん詰まりの当たりだったけど、結果的にそこを0に抑えたことで、二回以降は素晴らしい内容で投げられた。彼に言ったのは、そもそも(打順)1番から始まる初回というのは打線が機能するようにできているんだよ、と。だから、そう簡単に抑えられないものと考えて、そこを頑張って全力で取り組んでいこうと伝えました。僕がケアしたのはそういう気持ちの部分だけですね。何とか初回を0で乗りきれば…」

 高橋の願いは甲子園に届いた。岩貞祐太は初回を2奪三振、無失点で軌道に乗った。この試合まで6試合のうち、5試合で初回に失点。6試合の総失点は「11」にものぼっていた。高橋の言う「鬼門」を乗り越え、岩貞は粘った。ラファエル・ドリスの乱調で復帰星は土壇場で逃げてしまったが、価値あるマウンドだったと思う。

 前日、サッカー日本代表の合宿で本田圭佑が「オープン・マインド」という言葉を使っていた。偏見なく、考える-。久保も高橋も岩貞の「謙虚に耳を傾ける姿勢」を褒めていた。昨季10勝で得た自信と、オープン・マインドの心得…。甲子園は重苦しかったが、差し込んだ光を大切にしよう。=敬称略=

編集者のオススメ記事

吉田風取材ノート最新ニュース

もっとみる

    スコア速報

    主要ニュース

    ランキング(タイガース)

    話題の写真ランキング

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス