千葉から、福岡へ
【6月1日】
人の言うことは信じない。こう書くと、精神が病んでいるように聞こえるか…。要は疑い深い性格なので、自分の目で確かめないと気が済まないタチなのだ。そもそも、新聞記者は「○○らしい」という臆測で原稿は書けない。だから、千葉から福岡へ飛んできた。
博多から新幹線「つばめ」で24分。筑後船小屋駅の目の前にホークス2軍の立派な本拠地がある。
「見ていて、どうでした?」
お目当ての選手から、そう聞かれた。本人の感触は分からないけれど、見たままの感想を伝えた。
想像以上…。
西岡剛が左アキレス腱を完全断裂したのは昨年7月のこと。地道なリハビリを乗り越え、ようやくここまでこぎつけた。2日前のウエスタン・ソフトバンク戦で実戦復帰して、3戦目。この日は大隣憲司を相手に2打数1安打と結果を出した。詳細は紙面を読んでもらうとして、ここでは西岡と僕のやりとりを書くことにする。
試合前の守備練習はショートでノックを受けている。ステップ、グラブさばき、スローイング…実際に見てみると全く「怖さ」のない動きに映る。ただ、再発のリスクを考えれば守備位置はファースト限定では…。僕を含め、そう考える人間は多い。失礼を承知でこちらの本音をぶつけてみると、西岡は真顔でこう返してきた。
「そうでしょうね。でも、ファーストじゃ、もったいないと思ってもらえるかもしれないですよ。ショートで復帰するつもりでやっていれば、どこでもできる。監督からは『お前の言うことは信用できん』と言われていますけど…」
金本知憲との掛け合いは手に取るように分かる。西岡抹消の夜、金本のショックは相当なものだった。「サボり大魔王」などとイジり倒した日もあるが、西岡一流のファイティングスピリットを金本は誰よりも頼もしく感じていた。
実は球団も西岡の存在を凄く頼りにしていた。今だから書く。昨年、西岡の重傷を報じたデイリースポーツを巡って球団常務の谷本修から抗議を受けた。1面で「西岡 選手生命の危機」と見出しをつけると、「書かれた本人の気持ちを考えてください」と…。選手を守る立場だから谷本の言い分は理解できた。ただ、僕なりの反論はあった。なぜって、カープの前田智徳を見てきたから。前田も西岡と同じく一塁への走塁時にアキレス腱を断裂し、復帰まで気の遠くなる時間を要した。もうダメだと自暴自棄になり…選手生命は危ぶまれた。
西岡は本音を語ってくれた。
「僕ね…ツインズのときDL入りして、メジャーに上がれなかったころに一度、気持ちが切れてしまったんですよ。今思えばね…。そこから気持ちを上げることが難しくなってしまって。去年ケガしたことで、またここまで自分が本気になれたことはすごく良かったと思ってますよ。見てて下さい」
福岡へ来て良かった。西岡の現在地を見られたことが収穫。まだ時間はかかると思う。選手生命の危機…だったからこそ復活へ歩を進める姿が尊いのだ。=敬称略=