糸井アドバンテージ
【5月28日】
さや姉が甲子園にやってきた。
NMB48の山本彩…今や国民的アイドルだから、芸能界に疎い僕でももちろん知っている。関係者用の狭い階段でスレ違いざまに挨拶した。こんなに間近で見るのは初めて…。それはもう小顔だし、カワイイ。でも、テレビや雑誌のイメージとは少し違う。スラッと背が高いのかと思っていたが、実物は愛らしいほど小柄である。
実際に接してみると、ガラッと印象が変わる。プロ野球の取材でもそんなことはよくある。ただ…長い記者歴でこんなにイメージが変わった選手はいない。
糸井嘉男である。
担当外の球団を深く取材する機会はない。日本ハム時代に一度だけ彼を取材したことがあるが、時間にしてほんの4~5分。それ以降、接したことがなかったので、彼に対するイメージはメディアを通してインプットされてきた。
新聞やテレビで彼のニックネームはよくこう表現されていた。
「宇宙人」
天然キャラでコメントもふわふわ。独自の世界観があって本性をつかみづらい…そこから派生してこちらが想像する糸井のキャラはゴーイング・マイウエー…。勝手にそんなイメージを抱いていた。
ところがである。2月に挨拶を交わし、きょうまで接してきた糸井の人物像はまるで異なる。特に彼を美化するつもりはない。本当にそう感じるから書こうと思う。 取材…。一対一で糸井に話を聞くと、まっすぐ目を見て真摯に答える。これまでコラムでも紹介したように、発言の内容が真っ当。通り一遍でなく、なるだけ本音を伝えようとする気持ちも感じる。
プロ意識…。取材の限り、「放っておけばいつまでも練習をやめない」選手であり、「実績の乏しい後輩にでも助言を請う」選手。何でもプロセスにボーダーを設けず、納得いくまでチャレンジするいわば求道者…。それが、糸井。
フォア・ザ・チーム…。糸井の連続無安打が20打席まで伸びた先週のヤクルト戦。上本博紀、高山俊らの活躍で連敗を止めた神宮の試合後、彼の人間性を聞いた。帰りのバスで「ナイスバッティング!」「グッジョブ!」と、一番大きな声で後輩たちを称えていたのは、絶不調の糸井だったという。
鉄人…。三回守備でホセ・ロペスの飛球を追って大和と交錯し、右まぶたから出血した。ファンも彼の表情を見て感じたと思う。全く痛がらない。死球でもそう。「メジャーリーグでは、痛がると弱いヤツと見なされる」。そんな信念がずっと根付いているのだ。
「チーム内での影響力もそうだけど、何よりも、打線に糸井がいることで、相手へのプレッシャーが全然違うでしょ。彼の前に(走者を)出せないというプレッシャーを与えるだけで大きなプラス」
開幕から46試合。福留孝介は「糸井効果」をそんなふうに教えてくれた。首位陥落で交流戦へ向かう。初戦の相手はロッテ。記録部によると昨季の対戦打率は・326。糸井加入のアドバンテージをたっぷり感じたい。=敬称略=