4連勝を生んだ雨

 【4月28日】

 時計の針をちょうど1週間前に戻してみる。ランディ・メッセンジャーが東京ドームの巨人戦で8回1失点(自責0)、10奪三振で3勝目を挙げた。あの金曜の夜、ドームの薄暗い通路を引き揚げるメッセとこんな会話を交わした。

 「明日も走るのかい?」

 「もちろんだよ。朝からインペリアル・パレスまで走ろうと思っているよ。何キロくらいあるだろうね。まずまず距離があるから、1時間以上は走るんじゃないかな。1周5キロ?そうなんだ。ちょっと長くなるから、ショートカットするコースを選んで走るんだ」

 来日8年目になる。ジーン・バッキー(62~68年)、ジェフ・ウィリアムス(03~09年)を抜き、球団史上最長の在籍年数を誇るメッセが登板翌日に欠かさないルーティンがある。毎回、筋肉疲労の元凶となる乳酸を取り除く目的でロードワークを行う。広島でも名古屋でもビジターでは走りながらコースを探索し、今では各地に「メッセ・ロード」が存在する。都内であれば千代田区のチーム宿舎から、周回5キロの皇居まで…。

 たまたまメッセが地元でランニングする姿を見掛け、そんな話をするようになった。昨夏、西宮の山手幹線を黙々と走るメッセについ「ランディ!」と声を掛けてしまった。「ハイ!」と返してくれたが、ニコリともしなかった。オレは趣味で走ってるんじゃないんだぜ…。そんなオーラが漂っていた。普段はフランクで、好物ラーメンの話も喜んでする。でも、ひと度スイッチが入ればメッセ一流のプライドをにじませる。長年担当する者は、そのスイッチを見誤らないように取材する。そして、この空気感は実は取材に限らない…。チーム内でもエースのプライドは十分尊重されていると聞く。

 短い間隔で投げたい。なるべく登板日を飛ばして欲しくない。僕の知る限り、それが年間200イニング登板を目安にする大黒柱としての気概である。実は、今季メッセが首脳陣の打診に一瞬、表情を歪めたことがあった。時計の針を2週間前に戻してみる。

 開幕投手の3戦目は13日DeNA戦(横浜)に設定されていた。だが、藤浪晋太郎が先発予定だった11日DeNA戦が雨天中止になるとメッセの登板日をずらし、藤浪が13日に先発した。これは藤浪が背信投球で死球乱闘を招いた6日ヤクルト戦明けの善後策でもあったが、メッセは「(13日に)投げたい」と本音を漏らしていた。

 結果的には藤浪が13日に挽回の今季初勝利を挙げ、翌14日の先発に回ったメッセは広島の連勝を10で止める快投…。あの時メッセのプライドを重んじ、フォローを惜しまなかった首脳陣のファインプレーがあったと僕は思っている。

 この夜、開幕から4連勝を決めたメッセに聞いてみた。横浜の雨、恵みの雨だったんじゃない?

 「登板日が流れると勝負師としてはイライラすることはある。でも結果としてチームにも自分にもプラスになったのでヨシだよ。明日?ハハハ。もちろん、走るさ」=敬称略=

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