40歳のメッセージ

 もう、40歳…。そんな感覚である。福留孝介が前日不惑のバースデーを迎えた。僕が彼を初めて取材したのはデイリースポーツ入社1年目。1995年だから、22年前になる。場所はPL学園の野球部専用寮「研志寮」の応接室だったと記憶する。3年間の部活動を終え、退寮した12月15日。当時18歳の福留は僕の服装に目をやり「そのダウンベスト、いいですね」と、ファッションチェック。野球一筋の学園生活に別れを告げた冬、丸刈りだった髪も伸びかけ、自身のコーディネートにも関心が芽生えていた…のかもしれない。

 「え?そうでしたっけ?」。もちろん、本人は覚えていない。ドラフト指名を受けた近鉄の入団を断り、日本生命で鍛錬を積んで中日入り。二度の首位打者に輝いた後、夢を追って海を渡った。高校卒業後、激動の野球人生を過ごしてきた彼が22年前に交わした対話など記憶にあるはずもない。けれど、取材対象すべてが新鮮だったこちらははっきりと覚えている。

 そんな新人時代、多ジャンルの現場を経験した僕にとって、球界以外で最も思い出深いのは将棋の羽生善治。25歳の彼が山口のホテルで史上初の7冠を達成した王将戦に立ち会った。「虎で1面」の本紙が1~3面をぶち抜き棋界の快挙で紙面構成。わが社にとっても歴史的な日になったわけだが、あれから21年、あの羽生が中学生に敗れるというニュースが4日前に飛び込んできた。14歳の藤井聡太に屈した46歳の羽生は「すごい人が現れた」とコメント。時代の移り変わりに寂しさも感じるけれど、棋界にとって衝撃的な世代交代は称えられるべきなのだろう。

 さて、40歳の福留が新キャプテンを担う今年の阪神だが、この人事には世代交代が進んでいない、もどかしいチーム事情も反映されている。この夜初スタメンのエリック・キャンベルが七回にタイムリーを放った。4試合ノーヒットの原口文仁が一塁を譲った形だが、金本知憲の心情は複雑だ。新助っ人が結果を残せば原口は定位置を失う。今更だが、チームには20代後半の野手のレギュラーがいない。高山俊や北條史也、中谷将大…彼らが定位置を奪いきれなければ世代交代の波は停滞する。勝った日に書くのも気が引けるが、20試合を過ぎた今、若い力がもっと輝きを放って欲しいと感じる。

 「アウトになっても納得いくアウトであればいいじゃない。今自分がやっていることを目いっぱいやって、それでダメならまた練習すればいい。強いライナーを打ちたい。強いゴロを打ちたい。その打球を打ってアウトになっても、やろうと思っていることができたのなら、それでヨシ。また次のステップに進もうと思えればいい」

 福留と話せば、若手に語りかけるようにそう言うのだ。

 それにしても渋い。初回に奏でた40歳初の快音は、ランエンドヒットで二塁カバーに動いた倉本寿彦の左を鮮やかに抜いた巧打。3点目をお膳立てした主将の一打が試合を決めたと僕は思っている。=敬称略=

編集者のオススメ記事

吉田風取材ノート最新ニュース

もっとみる

    スコア速報

    主要ニュース

    ランキング(タイガース)

    話題の写真ランキング

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス