眠らせておいてよ

 【4月20日】

 見たいものがあっていつもより2時間早くナゴヤドームへ向かった。天井の照明がまだ薄暗い13時半。一塁ベンチで中日ナインを入り待ちしていると、お目当ての選手が出てきた。竜の2年目助っ人ダヤン・ビシエド。昨季これでもかと阪神戦で打ちまくったキューバの大砲がここまで波に乗れていない。不振だから早出で練習するだろう。そう思って僕も早出してみたが、やはりうかない顔だ。

 打撃コーチ土井正博の指導にうなずき、巡回コーチのオマール・リナレスが至近距離で下投げする球を打ち返す。その後3人でベンチ裏の部屋に10分こもり、iPadで撮影した打撃フォームの動画を確認していた。土井は「前のほうに手が伸びるように…」と練習の意図を説明してくれたが、要は打球を上げる調整だった。昨季22本塁打の助っ人がこの試合までオーバーフェンス「0」。最近6試合は24打数2安打で打率・083。その2本も単打だから深刻だった。メジャーで実績もあるし、キューバの至宝リナレスに一任していたようだが、早くこの惨状を脱してもらうために、土井も黙っていられなかったのだと思う。

 「去年はね…弱点は分かっていたんですけど、そこを攻めきれなかった。中日にしたらビシエドの不調は痛いでしょうけど、こちらとすれば、オーダーに彼の名前があるだけで気持ち悪いですよ」

 試合前にそう語っていたのは阪神投手コーチの香田勲男。無理もない。こんなことを書くと竜党に悪いけれど、このままずっと眠っておいてくれ…が阪神サイドの本音だった。だって一度起こせば虎が一番被害を被りそうだから。

 「気持ち悪い」-。香田の悪い予感は当たってしまった。この夜6番でスタメン出場したビシエドは無安打で迎えた八回にマルコス・マテオの外角球を捉え、ダメ押し2ランを右翼へズドン。早出練習の成果が最後に出た格好だ。

 阪神の中日担当スコアラー山脇光治は試合後「あのコース、手伸びゾーンは打ちよるな」と嘆いたが、そもそも相性が悪すぎる。26歳の若さでメジャー通算66本塁打-鳴り物入りで来日した新助っ人は昨季開幕カードの阪神戦で3試合連発のド派手デビュー。結局、16年度のビシエド対阪神は打率・377、7本塁打、20打点。カード別成績でダントツの成績を残した。かたや相性の悪い巨人戦は・236、2本塁打だから、実に虎泣かせのキューバ人なのである。

 この3連戦を振り返ってみると阪神はV砲を一度起こしかけたことがあった。初戦の初打席で岩貞祐太が浴びた右中間への飛球を中谷将大がダイビングキャッチ。チーフコーチの平田勝男は「あれを捕れていなかったら、ビシエドに火をつけていたかもしれない」と話していた。天敵浮上のきっかけを未然に防いだビッグプレーだったが、この夜、火をつけてしまったかもしれない。好守、拙守ともに出たナゴヤの3連戦。ビシエドを起こした4・20。後々そんな述懐だけはしたくないが…。=敬称略=

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