確信の、糸原起用

 【4月15日】

 デイリースポーツの選手名鑑を見ると、175センチとある。ルーキー糸原健斗の身長である。僕は菊池涼介(公表171センチ)とよく立ち話をするけれど、彼と変わらないような気もする。ウチの誤植かと思い、他社の名鑑を確認するとやはり175センチと記してある。

 「175?そんなにないんじゃないか。ちょっと待てよ。ここに書いとる…。173よ。本人が書いとるけぇ、間違いないじゃろ」

 広島のジム「アスリート」代表の平岡洋二が教えてくれた。金本知憲の練習拠点だった同ジムには門下生全員の資料が山積みになっている。新井貴浩や中田翔、柳田悠岐、そしてダルビッシュ有…。ここに入門すると、彼らもそうしたように、まずトレーニング用紙に自分のサイズを記入する。そして多角度から全身の写真を撮り、ビフォー時のデータを残すのだ。

 新井のように本当は190センチなのに1センチ過少申告する選手は珍しいけれど、小柄な選手ほど少し大きめに言う。だから糸原がそうしていたとしても特に驚きはない。

 失礼ながら、こちらが驚いているのは小兵に似合わぬその力感なのだ。僕だけじゃないと思う。糸原がドラフト5位指名された昨秋、半年後に彼が遊撃でスタメン出場することを誰が想像しただろう。指名した金本本人ですらそこまで想定していなかったのだから。

 金本から「内緒にしてくれ」と頼まれたことを初めて書く。昨年9月27日の朝、金本は西宮市内の大阪ガスグラウンドへ車を走らせた。阪神監督の登場に周囲はざわついたが、当時は酒居知史(大阪ガス→ロッテ2位指名)の実戦登板視察が主目的だと思われていた。だが、本当のお目当ては大阪ガスの対戦相手にいた。それがJX-ENEOSの糸原。酒居が二段モーションを注意されて球威を落とす中、糸原は中前へ1安打。金本はその印象を「まあまあかな」と多くは語らなかったが、それからひと月後、実はある確信を持って糸原を指名することになる。

 前夜、糸原がプロ初スタメンに名を連ねたことに驚いたが、この日は金本が彼を起用したくなる理由が分かる気がした。記者席のモニターを見ていると、カープ石原慶幸のミットは初回から動かなかった。自信を持って投げてこいとばかり構えは全てど真ん中。それだけ岡田明丈の速球は申し分なかった。全113球のうち58球が直球系。その力強い直球をチームで最初に打ち砕いた糸原のスイングには実に見応えがあった。ワンサイドゲームになると見所を失いがちだが、彼のストロングポイントを再確認できたことは、金本にとって大きな収穫になったはずだ。

 試合後、金本は「力強いまっすぐに負けないという、今チームが一番求めているスイングをしてくれたよ」と称えていた。半年前に糸原を指名した裏付け…金本はアスリートの平岡から聞いていた。「あいつ、金本の新人の頃より筋力の数値が高いんよ」。173センチに秘められた力感。「プロで一流になる条件」だと、金本は言う。=敬称略=

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