デカかった糸井の影

 【4月9日】

 3の0、1四球。ノーヒットの日に書くのもなんだけど、糸井嘉男はデカい。187センチ、88キロの肉体のことじゃない。相手ベンチにとって、その存在感はこちらの想像以上にデカいんだろうなあと感じるのだ。同点の八回に飛び出した上本博紀の決勝アーチ。試合後、上本本人も金本知憲も全く同じ感想を語っていた。「まさか、でした」。巨人担当に聞くと、打たれた森福允彦は「悔やまれる1球」と語ったそうだが、おそらく本音は「まさか…」だったはずだ。プロ8年間で19本塁打。そもそも上本自身がその数字を気にするタイプの打者ではないのだから、Gのダメージも少なくないだろう。

 その「まさか」が生まれたワケを探ってみると、やはり、ネクストバッターの存在がデカかったのではないか。「3番、4番を見据えての策か?」。敵将高橋由伸は森福の八回続投について問われると、「そうですね。それもありましたので、はい」と答えた。先頭上本は右打者。それでも七回1死から登板した“左殺し”に初のイニングまたぎを命じたのは「糸井封じ」を託すため。上本に対し、小林誠司の構えたミットは初球から外、外、外。カウント1-1からアウトローに要求した3球目の変化球は「中に入ってしまった」(森福)。この制球ミスがGにとって命取りになった格好だ。

 糸井が「日本シリーズみたいやった」と語った7日の巨人戦。今季初の伝統の一戦でいきなり2安打を放ち、立ち合いで「虎に糸井あり」を印象づけた。ここまで8戦で打率・370、3本塁打、10打点。降雨ノーゲームとなった前日も初回に田口麗斗から痛烈に右前へ運んでいた。こんな打棒を見せつけられれば、糸井マークが徹底されて当たり前。敵将に「糸井の影」を意識させたことで飛び出した「まさか」の1発だった。

 それにしても、手負いの糸井にとって新天地で躍動する原動力は何なのか。オフに右膝を痛めたことで別メニューで過ごした2月について、本人は「キャンプをやっていない」と表現する。このディスアドバンテージを抱えながら戦う心境を背番号7はこう語る。

 「いや…。やっぱり不安やし、心配はありますよ。膝がね…。でも、皆そうなんですよね。体すべて万全でプレーしている選手なんて、誰もいないわけやから。正直に言うと、1月、2月は、もしかしたら開幕、無理かなと思っていたんですよ。俺、やってしまってるやん…って。ほんまに、めちゃヤバかったんで。阪神に来ていきなりケガして、何を言われるか分からないなと思っていましたよ」

 そう言えば現役時代の金本知憲も話していた。「やばいと思ったときほど力を発揮できる」と。

 糸井は言う。「少ししか出れなかったけど、オープン戦でやってみて何とかやれるかな…と。まあ、やりますよ」。不安や逆境を跳ね返し、結果を出す頼もしさ。ノーヒットでも、その存在感のデカさは新しい虎の象徴である。=敬称略=

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