無意識の力

 【4月8日】

 トイプードルの愛らしい吠え声、いや勝ちどきを聞きたかった。ルーキーイヤーで巨人戦の防御率2・10は立派。今季も初戦で叩いておけばGの天敵になりうる。だから、残念だった。あ、これ、青柳晃洋の話。金本知憲がつけた小型犬の愛称は浸透しているようで、降雨ノーゲームが決まった後、青柳を囲む報道陣に「ウチのトイプードル、いじめないでくれよ」と悪戯っぽく笑っていた。

 それはさておき、昨年、巨人打撃コーチの江藤智に青柳との初対戦の印象を聞いたことがあった。「う~ん。まあ、苦手にしないようにするよ」。広島担当時代から長い付き合いになる江藤とは同級生で、よく話をする。はっきりとは言わなかったが、彼の顔に“厄介だよ”と書いてあった。

 得手不得手。相性。プロ野球にはつき物だと思う。この選手だけは顔を見るのもイヤ。20年この仕事をやって、そんな話をよく聞く。青柳対巨人。16年のデータを見ると1勝3敗という数字が残る。ただ、先ほど触れたように対戦防御率は悪くない。荒れ球も効いて初顔で黒星をつけられた巨人は江藤の表情が語るように、どうも青柳を嫌がっているように見える。

 天敵にするか。好物にするか。この分岐点はとても大事。だから、田口麗斗との今季初対戦にも興味があった。16年は6戦5敗だから虎にとっては天敵。ただ田口は昨季10敗しているわけで、DeNAなどこの左腕を特別苦にしないチームもある。そこには戦略や技術だけでは片付けられない、相性の良し悪しが必ずある気がする。

 記者席で元阪神投手の渡辺亮と会った。現在阪神のプロスカウト担当として第二の人生を送る彼は巨人打線を眺めながら言うのだ。

 「僕、坂本は結構抑えていたと思います。逆に長野とは最悪でした。たぶん数字に出ていると思いますよ」。調べると確かに…。渡辺対坂本勇人は22打数3安打、打率・136。対長野久義は13打数8安打、打率・615。「理由?いや、これはもう相性だと思います。苦手意識のあるバッターに投げるときは、スーッとボールが真ん中へいっちゃうんですよ」。渡辺の分析を聞いて、「へえ~」と妙に納得させられてしまった。

 いかに苦手意識をつくらないか。これが長丁場の浮沈を左右することは言うまでもない。そういう意味では開幕戦で天敵クリス・ジョンソンを叩いたのは大きいし、この日、立ち上がりの田口を攻めたことは前向きに捉えられる。

 打撃コーチの平野恵一に「相性」について聞いてみた。

 「去年ここに居なかった選手にとってみれば、チームとして田口を苦手にしていたかどうか、まずそれを知らないでしょ。糸井はそんなデータを知らないわけで…。こちらも気にさせないですから」

 なるほど。そう言えば、いきなり田口を捉えたのも糸井。ジョンソンを崩したのも糸井。天敵?知らね~よ。そんな無意識の力が、もしかしたらとても有効なピースになるのかもしれない。=敬称略=

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