仮想新井の内角球

 【3月26日】

 偶然、広瀬純に会った。昨季限りで引退したカープの名手は今年から広島のRCC(中国放送)で解説者を務めるという。守備の人という印象が強いが、15打席連続出塁というコアなプロ野球記録保持者でもある。彼とC-T開幕戦の話題になったので聞いてみた。15年間の現役を振り返って「阪神で最高の投手」は誰だったのか。

 「能見投手です。数ミリ単位で左右に正確に投げ分ける技術。速いボールと、抜いたボール、奥行きのあるピッチング、すべてできる。こういういい投手を何とか打ちたいと思っていましたし、苦労しましたけど、対戦することが一番楽しみな投手でした」

 右打者の広瀬にとってやはり印象深かったのは、内角をズバッと突かれたまっすぐだという。

 「能見投手からすれば、あのボールの精度を高められるかどうか…。彼の生命線ですもんね」

 そう。能見篤史本人に聞いてもその認識は強く「キャンプではまずそこに投げることを意識しまくります」と聞いたことがある。だから僕は思う。13年目に臨む左腕にとって、この日は究極のリハーサルになったのではないかと…。

 オープン戦最終戦のマウンドに上がった背番号14は初回から球数を要することになった。ぶっちゃけ、これはもう審判との相性。京セラドームのモニターで確認してもベース板の上を絶妙にかすめる「生命線」がことごとくボールと判定されていた。初回は安達了一、ロメロ、小谷野栄一への内角球はいずれもボール。特に1死満塁から小谷野へ投じた3球目。カウント1-1から能見がストライクと「確信を持った」クロスファイヤーがこの試合の分岐点になったように思う。ボール。このとき、37歳は一度だけ表情をゆがめた。

 この回、小谷野に浴びた適時打はフルカウントからの9球目。外れれば押し出しの局面で「最高の3球目」よりボール半個ベース板に乗せた直球を左翼へ運ばれた。5回4失点。能見の公式コメントは紙面を見てもらうとして、僕の取材では本人は「収穫」を得て本番前の最終登板を終えた。

 「新井さん、菊池、誠也…カープの右バッター、特に新井さんは能見投手を得意にしてるでしょ」

 能見が先発予定の開幕3戦目に(公式戦の)解説デビューする広瀬はよく知っていた。昨季の被打率を見れば能見は左よりも右打者を抑えている。だが、新井貴浩には・467、菊池涼介にも・429と分が悪い。マツダスタジアムで防御率1・87を誇るだけに、鯉の右打者をいかに抑えるかが能見の今季を左右することは確かだ。

 「新井さんは左投手の内角のまっすぐを苦にしませんからね…」

 広瀬に教わらずとも、それは知っている。能見はオリックスの右打者を仮想カープのそれに見立てていた。たとえ球審の右手が上がらずとも、その精度を確かめておきたい。だから、これでもかと生命線にこだわり、小谷野を新井の姿に重ねた。本番で何が何でもリベンジするイメージを描いて…。=敬称略=

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