藤浪の知る目的地

 【3月25日】

 シェイ、ヤンキー、ドジャー、ターナー、PNC、フェンウェイ、AT&T…。2001年だから16年前、新庄剛志、伊良部秀輝ら日本人メジャーリーガーの取材で3カ月余りアメリカに滞在したことがある。とにかくスタジアムの雰囲気が素晴らしい。野球とベースボールの違い。よくそう言われていた。体験する前は「何それ?」と関心も沸かなかったが、実際に肌で感じてみるとよく分かる。

 「ぶっちゃけ、経験した者にしか分からないものを第三者に伝えるのって、難しいんですよ」

 伊良部がレンジャーズから阪神へ移籍した初年度、2003年のシーズン前に西宮で鍋を囲んだことがある。饒舌だった彼がそう語っていたことを思い出す。初対面の僕にヤンキース時代のこともよく話してくれた。経験した人間にしか分からない…確かに伊良部の言う通り。どんな世界だろうと実体験に勝る成長はない。以前もこのコラムで書いたのだが、そういう意味でも、今年は例年以上に藤浪晋太郎に期待してしまうのだ。

 日本代表として貴重な時間を過ごした22歳が大阪に帰ってきた。この日、京セラドームのオリックス戦でチームに合流。背番号19を見るのは沖縄キャンプ以来1カ月ぶりになるが、僕は彼の調整を追いながらちょっと驚いた。顔つきが変わっている。西海岸の日焼けのせい?そうじゃないだろう。

 「絶対にあると思いますよ。あんな経験はなかなかできない。彼にとって代表で過ごしたこの1カ月間はとても意味のある、かけがえのない時間だったと思います」

 スーツに身を包み、ロッカールームに現れたのは手嶋秀和。藤浪の専属トレーナーとしてWBCに派遣された阪神球団のコンディショニングスタッフである。

 「とにかくケガなく、故障なく帰国できたのは良かったです。コンディションに関しては向こうでも問題なく、すごく順調でした」

 今季からファームに配属された手嶋は金本知憲ら1軍首脳への報告のため、京セラを訪れた。WBCでの登板機会が乏しかったことで金本は藤浪の実戦不足を危惧する。現場の長として当然だが、藤浪は中継ぎ待機でもブルペンで必要数を投げ込むなど余念がなかったという。シーズンへの影響がどう出るか。それは神のみぞ知るだが、長丁場において今回得た無形の財産が必ず彼を助けると思う。

 ひと月前倒しの調整はそれこそ経験者にしか分からない。例えば06年WBC代表の久保田智之や09年代表の岩田稔は結果としてシーズンで苦労した。黒田博樹の代役で呼ばれ、登板機会のなかった久保田はそれでも「あの経験はずっと生きました」と話していた。

 金本が藤浪の入団時に贈った色紙には「日本のエースに!」と記されている。22歳はベースボールの母国で感じたはずだ。志す目的地まであと何キロ足りないのか。歩き方を変えればいいのか。別の道を探すべきか。かけがえのない体験を藤浪はどう活かすのだろう。楽しみなシーズンになる。=敬称略=

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