青木宣親の高み

 【3月7日】

 青木宣親が帽子を胸に当て国歌をうたう。阪神が甲子園でヤクルトに快勝した3時間後、東京ドームでWBCの日本ラウンドが開幕した。僕は侍ジャパン唯一のメジャーリーガー青木の表情をじっくり追ってみた。2度の世界一を経験した代表最年長でさえ、面持ちはやや硬いように映る。国を背負う重み、初戦の重圧はその舞台に立った者にしか分からない。

 大会前、青木に会って聞いてみた。日本で首位打者3度、最多安打2度を記録した現役メジャーのヒットメーカーにとって、母国日本の代表とはどんな場所なのか。

 「違う。やっぱり、違いますよ。いつも以上に国歌がすごく入ってくるし、国歌斉唱で誇りに感じる部分はすごくある。代表を重ねるうちに、そういう思いは強くなってきましたし、日本代表と名がつくと、周りがそういう雰囲気をつくるというか…。国民のみなさんが見ているという思いもある。いつも以上に見られている感じがあるし、短期決戦の一発勝負という意味でも、レギュラーシーズンとは違うところはありますよね」

 青木とは年に一度、決まって年明けに話をする。今年はメジャーリーガーになって初のWBC参加であり、新天地アストロズで定位置を狙う立場でもある。本人はおくびにも出さないが、オフの調整は難しかったはずだ。それでも都内の練習拠点にお邪魔すると、例年と変わりなく穏やかに迎えてくれた。青木は僕が長年阪神を担当していることを知っている。だから、WBCの注目度を語ったとき「阪神の選手も十分見られている感じはあると思う」と、伝統球団ならではの難しさにも触れた。

 「僕はヤクルトにいたときからいつも思っていました。日本代表に選ばれるくらいの選手になりたい。そういう選手でありたいって。どの球団の選手もみんな、アスリートとしてトップを目指したいと考えているはずだから、代表に選ばれたいと思っていると思いますよ。僕は常に『上に、上に』と考えるタイプだったから、日本代表への思いは強かったかな…」

 若い選手は全員、侍への憧れを持っているだろうか。そう問うと、青木は確信を持ったように答えた。今回、阪神から代表入りしたのは藤浪晋太郎のみ。過渡期のチームとはいえ寂しい。3人選出の広島や巨人は有形無形の財産を必ず手にできる。そんな観点からも、阪神の作戦兼バッテリーコーチ矢野燿大は自軍から代表に選ばれる選手を育てたい思いが強い。

 「現状ウチの若い選手はまず阪神のレギュラーになることが先。レギュラーになれば、次の代表になる可能性は出てくる。でも、まだそこまでいけていないからね」

 この日、次代の戦力が躍動した甲子園で矢野はそう話した。第2回のWBCで原辰徳の右腕として世界一を経験したヘッドコーチ高代延博も矢野と念願を共有する。

 「ウチの選手はWBCを観るだろ。当然観るものと思ってるよ」

 上に、上に。若虎が侍の熱気を向上心の原動力にできるか…。=敬称略=

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