日帰りでも観たい

 【2月27日】

 金本知憲の10年来の知人が宜野座にやって来た。「阪神ファン歴48年」という52歳。なんと、東京から日帰りだという。「いやあ、どうしても見ておかないといけないと思って。ドラ2の子がきょう投げると聞いたんで…」。この男性、シーズン中は辛辣な物言いで金本を苦笑させることもある。それにしても、熱心。弾丸で来なくたって最近はケーブルTVやネットの動画サービス「虎テレ」でもキャンプ観戦できる。「やっぱり、ナマで見たいんですよ」。それほど、ルーキー小野泰己(おの・たいき)への期待が高いという。

 キャンプ序盤、金本から聞いた。「小野、あれはええぞ」。公式コメントではない。雑談で漏らした本音だ。まだ実戦デビューを果たしていない段階、つまりブルペンの投球だけを見て、打者目線で「使える」と即断していた。力投型でも変則型でもなく、癖のないシンプルなスタイルで放るので、フォーム自体に威圧感はない。それでも、この日の紅白戦では高山俊に対し、最速153キロを計測。昨季の新人王を圧倒し、空振り三振に斬ってとった。変化球の精度や走者を背負ったときの対応など、もちろんまだ課題も多いが、打者の手元でグンと伸びるスピンの効いた速球は迫力十分だ。

 「まずいですね…」。そう苦笑するのは広島スコアラーの玉山健太。この日は自軍のキャンプ地で業務があり、小野の投球をナマで見ていない。だが、すぐに情報が入ったようで「良かったんでしょ」と、やはり気になるようだ。

 「僕は彼をブルペンとBP登板でしか見ていませんけど、球持ちもいいし、打者が差し込まれていたので、球の出どころが見にくいかもしれません。ウチとの開幕カードに来るんじゃないですか。オープン戦であと三回くらいは彼を見られるので、そこで何とか…」

 新戦力の分析は007の優先業務。玉山の小野を観る目はこれから厳しさを増していくことになる。確かに金本は小野を開幕3連戦のどこかで起用する腹案を温めていると思う。明言したわけではないし、3月の結果次第でどう転ぶか分からないが、金本の小野への評価は投げる度に上昇している。

 「高山を三振…あれを見られただけで十分。ドラフトでは1位で投手を獲って欲しかったけど、金本監督は2位で小野を獲るから大丈夫だと思っていたんですよ」

 金本の知人は満足げに「帰ります」と那覇空港へ帰路を急いだ。 小野は折尾愛真高から富士大を経てプロの門をたたいた。高校3年の夏の大会は故障で登板は1イニングのみ、初戦敗退。プロ志望届を出してはみたが、指名漏れした雑草右腕だ。同級生の藤浪晋太郎とは経歴に雲泥の差があるが、虎のスカウトはそのポテンシャルに惚れ込んでいた。そう言えば…阪神も指名を狙っていたロッテのドラ1、佐々木千隼の取材で石垣島キャンプにお邪魔したとき、ロッテの球団関係者が言っていた。「実はウチ、ずっと小野くん狙っていたんですよ…」。=敬称略=

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