福留の親友と…

 【2月26日】

 ワイパー全開で読谷へ車を走らせた。アポなしだけど沖縄を離れる前に会っておきたい人がいた。

 「おぉ~、久しぶりですね。どうしたんですか?きょうは」

 プロ22年目のシーズンへ、荒木雅博は中日の2軍キャンプ地で黙々とバットを振っていた。あと39本で通算2000安打に到達する。カウントダウンの始まった昨秋あたりから、偉業関連の取材がどんどん増えてきたという。

 「そればっかりですね(笑)」

 走守でチャンスをつかみ、走守で名声をつかんだ人だから、打力進化のプロセスに興味がある。かつてはスイッチヒッターに挑戦するなど、紆余曲折の野球人生は知られざる秘話も尽きないはず…。でも、このひと言で察した。

 「今、頑張っていますから」

 それ以上は聞いてくれるな。荒木の表情を読み取り、ならば…と「親友」の話題を振ってみた。

 「阪神は孝介キャプテンですよね。いい人選だと思います。今は上の人間が下の人間になかなか厳しく言えない時代。でも、あいつはきちんと言える。そういうことも関係なく言える、昭和の人間…というと語弊があるかな。僕も昭和の人間だけど、僕にはないところだからうらやましいところでもあるんです。間違っている時は『間違っている』とはっきり言う。それだけ自分のプレーに自信を持っているし、芯を持ってやっているから言えるんだと思います」

 荒木とは昨年知人を通じて知り合ったばかり。それでも雨の中、足を止めて丁寧に話してくれた。中日ファンからすれば「今さら」の話だが、荒木と福留孝介は1977年生まれの同級生。95年ドラフトで中日が1位、PLの福留をクジで外し、さらに外し熊本工の荒木を「外れ外れ1位」で獲得したのは有名な話である。その年福留は社会人に進み、98年ドラフトで中日を逆指名。同僚になった2人は互いを認め合う仲になった。

 この日は竜の1軍キャンプ地、北谷の中日対阪神戦が雨天中止に…。僕は試合決行でも、読谷へ取材に行こうと決めていた。打の節目で福留と肩を並べる荒木の足取りを見ておきたかったから。2軍スタートは志願だという。5分、10分を大切にし、目的意識を明確に練習する39歳の姿は、これ以上ない若竜の手本になっている。

 「去年、あいつ試合中に藤浪君に注意したでしょ。ナゴヤドームで。僕は一塁ベンチから見ていましたけど…。孝介本人はキャプテンになっても特別何かをやろうとは思っていないと思う。自分がやることは今までと変わらず、うまくまとめていくんじゃないかな。いいお手本になる選手ですから」

 昨年6月、福留が日米通算2000安打を達成すると、荒木は甲子園に祝福の花を贈ったという。

 「派手なバルーンアートでも贈ってやろうかなとか、色々ネタは考えていたんですけど…。邪魔だと言われると思ってやめました」

 敵味方なく野球ファンが偉業を楽しみに待てる男。そんな荒木を祝う親友の言葉もまた楽しみだ。=敬称略=

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