JFKのKは今…
【2月17日】
金本知憲はイタズラっぽく笑いながら、クイズを出した。
「2005年のリーグ優勝の瞬間、最終回のマウンドにいたのは誰でしょう?これは簡単だな」
新聞記者にも異動がある。一般紙を含め、今年は阪神担当の記者に新しい顔ぶれが増えた。中には初めてプロ野球を担当する者もいる。「記者ならタイガースのこと、勉強しているよな」。新顔との懇親をはかる意味合いもあり、金本は記者の知識を試したようだ。
さて冒頭の問題。阪神ファンにとっては難易度が低すぎるかもしれない。前回リーグ優勝の胴上げ投手。正解は、阿部慎之助を左飛に打ち取った久保田智之です。
では、その久保田。現在の職業は何?これも熱心な阪神ファンなら、もうご存じかもしれません。
「いやぁ、苦労していますよ。日報を書かないといけないんですけど、毎晩、2時間くらいかかってしまって。考えるのも遅いし、こっちのほうも遅いので…」
球団にも異動がある。今年1月1日付で球団本部プロスカウト担当に転身した久保田は苦笑いする。「こっちのほう」とはパソコン。かつて90試合登板のプロ野球記録を作った鉄腕は今、沖縄で夜な夜なキーボードと格闘している。
プロスカウトでは1年先輩にあたる渡辺亮はこの日、ヤクルトキャンプ地の浦添にいた。「日報?僕は40分くらいで書けるようになったかな。パソコン教室にも通いましたよ」。昨季転身した渡辺は1年かけて文章作成に慣れてきたという。久保田はまだ機能を覚えるのに必死。ブラインドタッチどころか、人さし指でしかキーをたたけないようで「僕は頭が良くないから大変(笑)」だそうだ。
14年に引退した久保田は15年から打撃投手になった。大物の裏方転身が話題にもなったが、久保田は思わぬ壁に当たってしまう。
「チームに迷惑をかけてしまったんじゃないか。そんなしんどさがありました。きっちりできていればそうは思わないですけど…」
いかに打者をねじ伏せるか。その一点に集中してきた男が真逆の仕事をする。球速は110キロ前後。打たせるボールをストライクゾーンへ投げ続ける技量は容易ではない。思うように制球が定まらない。貢献できないもどかしさで日に日にメンタルもやられる。結果として球団が適性を再考し、フロントマンへの異動が決まった。
「ありがたいと思ってやっています。いろいろやったほうが勉強になると思いますし、必ず今後の役に立つと思って頑張ります」
スーツ姿にはまだ違和感がある。それでも、心機一転の久保田は沖縄で充実している。主に他球団の2軍キャンプ地を巡り、夜はWordに日報を書き込む。トレードやFAの調査。他球団がどんな練習をしているのか。外国人選手も見る。
12年前、最後のマウンドを託されたJFKのしんがりは言った。「何でも、貢献したいです」。あの夜、歓喜のウイニングボールをキャッチした金本に尽力を誓う。=敬称略=