糸井と金本の偶然 中日007の嘆き

 【2月16日】

 さや姉がやって来た。朝日放送の収録で阪神キャンプを激励に来たそうだ。あっという間に人だかりができたものだから球団広報が慌てて飛んでくる。サムスンとの練習試合は大盛況。新人王の高山俊はポンポンと打ち、秋山拓巳もいい。活気ある、賑やかなキャンプだ。なのに…。客席でずっとうかない顔をしている人がいる。

 「そりゃ、早く見たいよ。このキャンプの主役なんだから」

 第4クール初日、糸井嘉男が今キャンプ初めてメイン球場でバットを振った。練習試合の前、別メニューの“主役”が現れると、中日の阪神担当スコアラー、佐藤秀樹が「おっ」と声を上げた。残念ながら、まだフリー打撃は解禁しない。先月24日に右膝関節炎と診断されてから、3週間ちょっと。ネットに向かい、トス上げのボールをたたく姿に歓声が上がる。でも、ここは慎重に。ファンも閲覧できる練習メニューの用紙、その糸井の欄には2月1日から「トレーナー指示」と書かれたままだ。

 「あれだけ軽く投げているのに最後までボールが垂れずにグンと伸びる。あんな選手、いないよ」

 バットを置くと、今度は外野の芝でキャッチボール、そして遠投。その距離、50~60メートルくらいだろうか。センターからレフトのファウルゾーンへ、トレーナーを相手に肩を慣らす。遠投なのに相手の手元で浮き上がるような軌道。中日のドラフト1位投手だった男が「やばいよ、あれは」と苦笑いするほどだ。佐藤は言う。

 「新加入の選手はいいところと悪いところを見る。彼の場合、膝がどうか。守備なら球際。どの打球をレフトに任せるのか、ライトに任せるのか。自分でいくのか、いかないのか。フェンス際は膝の痛みで怖がるかもしれない。去年50盗塁の足も気になる。スライディングも見ておきたいし…」

 2月16日だから28日間の宜野座キャンプも半分が過ぎた。内部事情は分からないが、2月の実戦出場はまずないだろう。糸井本人と話をすれば、こんなふうに言う。

 「やっぱり、テンションは上がらないですよね…」

 新天地のキャンプで制限がかかり、思うようにならない。テンションが落ち込むのも無理はない。

 糸井を見ていると、移籍初年度の金本知憲を思い出す。あの年のキャンプでも似たような光景が確かにあった。2003年2月17日のデイリースポーツにこうある。「金本 ティー打撃再開」。つまり、14年前のこの日。右下腿三頭筋痛で別メニューだった金本がトス上げの球を打ち始めたのだ。結局、金本が初めて試合に出たのはそれから1カ月後の3月16日。開幕まで2週間を切った甲子園の巨人戦(降雨コールド試合)で高橋尚成からチーム唯一の安打を放っている。

 「糸井は2~3試合あれば十分開幕に間に合わせられる選手。試合見るのは1カ月先まで待つよ」

 竜の007は腹をくくったように言った。来月の予定を見てみる。ひと月先、3月17日は…佐藤の分析が問われる、中日戦だ。=敬称略=

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