石垣島からの鼓動

 【2月14日】

 佐々木千隼が初めて打者へ投げる。前夜ロッテの関係者からそう聞いて、朝一番のJTA便で那覇空港から石垣島へ飛んだ。いつまでも女々しい。そう思われても構わない。阪神がリアルにドラ1で獲得を狙っていた右腕、彼のプロ第一歩をどうしても見たかった。

 「指に掛かったボールが良かったね。スライダーの曲がりは大きいし、ボールに強さもある」

 快晴の石垣市営球場に鈍い打球音が響く。フリー打撃登板した黄金新人を見守ったロッテ監督の伊東勤は満足そうだった。直球、スライダー、フォーク、シンカーの4球種を織り交ぜ、計69球。打者3人に対し安打性はわずか2本。芯を外し、打撃ケージ上のネットを揺らすファウルを何度も取った。ロッテ担当によれば、キャンプ初日からそれほど状態は良くなかったという。それでも、打者に向かえば本領を見せつける。新人らしからぬ大物感が確かにあった。

 バント練習に励みながら佐々木の投球に見入っていた選手がいる。6年前、自らの意志と関係なく阪神を去った男、高浜卓也だ。

 「お久しぶりです。タイガースのみなさん、お元気ですか?」

 気遣いのできるナイスガイ。癒やし系の笑顔は昔と変わらない。

 「見返してやるとか、そういう思いではないんですけど、活躍しているところを見せたいという一心でやっています。僕、阪神戦は結構打ってますよね。気合が入っているんだと思います。去年、阪神のコーチの方に『もうそろそろ帰って来てもいいんじゃないか?』って、冗談で言われたりもしました。『お前、しっかりしろや』と言われるよりは嬉しいですよ」

 昨季6月9日、QVCマリン(現ZOZOマリン)。先発の藤浪晋太郎が途中降板した夜、守屋功輝が高浜に試合を決定づけるアーチを浴びた。あれでロッテに3タテを食らい、金本体制初の4連敗。借金は3に膨らみ、ロッテ戦を境に立て直しが苦しくなった。6月は結局8勝14敗、勝率・364。高浜に被弾した一戦がターニングポイントになったように思う。

 2007年度の高校生ドラフト1位は、11年のオフにFA小林宏之の人的補償でロッテへ移籍した。ロッテは前年まで正遊撃手の西岡剛がメジャーへ移籍。有望な内野手を探しており、同年キャンプで実戦14打数8安打(打率・571)の高浜がターゲットになった。

 「ロッテに来てからも連絡を取っていたのは柴田さん。だから、柴田さんが来たのも縁ですよね」

 昨オフ阪神を戦力外になった柴田講平も今、テスト入団したロッテの1軍キャンプで輝いている。コーチ陣からは「阪神を見返してやれよ」とゲキを飛ばされ、連日18時まで室内でバットを振る。

 「感謝しているからこそ、そうしないといけないし、卓也と一緒に特に阪神戦は活躍したいです」

 そう話す柴田の手の平には血豆が黒くにじんでいた。石垣島で観たかった佐々木。そして、逢いたかった高浜と柴田。3人の歩みはこれからもずっと気になる。=敬称略=

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