学校じゃない

 【2月11日】

 クリスティアーノ・ロナウドは笑顔でつぶやいたという。「メッシに会いたかったよ」。ひと月前、FIFAの16年度年間表彰式が行われ、ロナウドが世界最優秀選手に選ばれた。トロフィーにキスするシーンが印象的だったが、ベスト11に選ばれていたもう1人のスーパースター、リオネル・メッシは表彰式をドタキャンした。ロナウドは「彼が来なかった事情は理解できるよ」と話したそうだ。

 世界最優秀選手はメッシが最多受賞で5度。2位が4度のロナウド。頂点を競うライバルほど互いを強烈に意識する。公の場では相手をたたえても、オトナの対応とは別の顔が腹の底にあるものだ。プロとはそんな生き物だし、また、そうあるべきなのだろう。

 矢野燿大が現役のころ、未開花の投手に苦言を呈したことがある。当時矛先が向けられたのは江草仁貴、能見篤史、杉山直久ら入団4~5年目の若い力。2008年1月の取材ノートに記してある。

 「プロは学校じゃない。友達を作りに来てるんじゃないんだから。うちの投手は仲が良すぎる」

 同じポジションを争う選手が合同自主トレをする。わいわいとテーブルを囲む。同僚なんだから悲願を共有し、助け合う。悪いことじゃない。でも、矢野は「バチバチと火花を散らすライバル心」こそがチーム強化への近道だと考え、嫌われ役を買って出たのだ。

 あれから9年。今の阪神はどうか。今年も1月に何カ所か自主トレの取材へ伺ったが、同世代でポジションのかぶる選手が共に練習する光景は見られなかった。

 チーフコーチ平田勝男は言う。 「俺は掛布さんや岡田さんとは食事へ行ったけど、真弓さんとはそういう感じにはならなかったな。後輩でも和田や八木やショートの候補とは自主トレやプライベートで一緒はない。でも、それは今も同じだろう。例えば板山が高山や江越と一緒にメシへ行くことはないと思う。去年、高山がホームラン打ったとき板山ははっきり言っていたよ。『悔しいです』と」

 2度目の紅白戦で昨季の開幕捕手、岡崎太一が2安打した。熾烈な捕手争いで打撃に課題のある33歳がアピールを続ける。16年はケガに泣いただけに、「なにくそ」の執念は首脳陣に届くだろう。

 「あの年、そう言ったのを覚えてるし、今もその考えは変わってないよ。レギュラーになるまでは、そういう考えを持っていたほうがいい。ここにいるキャッチャーもみんな、そう思っていると思う。俺も昔、中村さんのいる同じ店ではようメシ食わんかったから」

 矢野はそう話す。中日時代は2歳上の正捕手、中村武志の控えだった。のちに中村のことを「存在が大きすぎた」と振り返ったこともあるが、それでもライバル心を絶やさず、球場の外で時間を共有することはまずなかったという。

 そう言えば、キャンプ休日に沖縄市でランチしていると、岡崎とばったり会った。「あれ、風さん、1人ですか?」。そういう太一も…1人だよな。=敬称略=

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