あったかい、黒コート

 【2月7日】

 2人の関係は大丈夫だろうか。こちらが余計な心配をしてしまうほど論調が辛辣なこともあった。05年の優勝監督、岡田彰布の金本野球に対する批評である。舌鋒鋭く、遠慮はない。対象が信頼するかつての教え子であってもだ。

 「作戦を見せ過ぎ」

 これが16年開幕戦におけるデイリースポーツ評論「岡田の法則」の肝だった。確かに逆転負けで黒星発進した。それでも高山、横田の新鮮な1、2番コンビが躍動し、例年になくファンの期待感が高まる試合に見えた。まして新体制の船出だ。全スポーツ紙の評論で辛口な切り口はデイリースポーツだけだった。詳細は省くが「143分の1試合目だから、手の内を見せず、堅実な作戦で普通に戦えばいい」と論じていた。

 金本知憲はデイリースポーツを自宅で購読している。「岡田さん、きょう○○と書いていたな」と話し掛けられることもある。借金12のBクラスフィニッシュでは結果として厳しい目を向けられるのは仕方あるまい。岡田評論に限らず、負けが込めばたたかれるのは金本も「覚悟していた」と言う。

 両人の胸中は分からないが、僕は勝手に岡田-金本は両想いだと感じてきた。だから、ウチの紙面を挟んで2人の関係がぎくしゃくしなければ…そう思っていた。

 阪神の前回優勝は指揮官と主砲の信頼関係なしに語ることはできない。「岡田さんが俺を4番にしてくれたから大きいのを打てるようになったし、40本塁打できたのも岡田さんのおかげ」。金本から何度も聞いた。2人のやりとりで最強のインパクトは岡田監督3年目のシーズンだろう。06年8月6日、松山での広島戦。1点リードで迎えた八回1死満塁の場面で岡田はベンチを出て金本に耳打ちした。カネ、楽にいけ!犠飛でええぞ!…ではなかった。

 「カネ、ホームラン打ってくれ」。キャンプ評論の仕事で宜野座にやってきた岡田は、笑いながら当時のやりとりを教えてくれた。

 「球児が投げられへんかったから、カネに言うたんよ。そしたらほんまにホームラン打ちよった。あのまま1点差で九回に球児が投げへんかったら、なんでや?と思われるやろ。満弾で5点差になったら球児が投げんでええからな」

 絶対的な藤川球児があの日、故障でブルペンに不在だった。そんな裏事情は確かにあった。ただ、この試合の七回に金本は膝を負傷し、脂汗までかいていた。それも承知でホームランを要求した指揮官。そして応えた4番。当時、漫画みたいな関係だなと思った。

 「これをやったら絶対に優勝できるという方法なんかないんよ。自分のやり方で結果が出なかったら違うことをやらなあかんし、いっぱい引き出しを持って、どれが一番チームに合うかやろうな…」

 つい先日、12年前の優勝監督は黒いコートをはおりながら僕に言った。「この上着、あったかいんやで。俺が監督やめるときにカネがくれたやつよ。高かったらしいで」。岡田と金本の信頼関係。その温度は冷めていない。=敬称略=

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