90回の意味

 【2月4日】

 77から97。一昨年から激増した阪神の昨シーズン失策数だ。この数字、ありがたくないことにセ・リーグワーストでもある。20増がBクラス陥落の要因であることは間違いないはずだが、デイリースポーツの記録部によれば、もうひとつ見過ごせないデータがあるという。

 90。これは阪神が昨シーズン完成させた併殺の回数である。守備部門のコーチには知らせづらいのだが、実はこの数、12球団で最少。つまり、ゲッツーを取れない虎だったわけだ。数字だけで守備力の単純比較はできない。でも、やはり屈辱感は残ってしまう。

 ノックの本数だけ日焼けが色濃くなる内野守備走塁コーチ、久慈照嘉は責任を感じている。

 「取れるゲッツーを取れないのはエラーと一緒。両リーグで一番少ない?そうだろうな。去年はエラー97個だけど、取れなかったゲッツーを考えたら、120~30失策くらいになるんじゃないか」

 追い打ちをかけるようだが、昨季100併殺を取れなかったのは12球団で阪神のみ。ちなみに王者広島は計128の併殺を完成させているので虎との差は38。なぜ、併殺の回数でこんなにも差がついたのか。久慈ははっきり言った。

 「内野手、固定できなかったからね。大和がずっとセカンドなら併殺はもっと取れていたよ」

 打撃不振、脚部の故障もあった。レギュラー定着を期待する名手がベンチウォーマーではいけない。キャンプ安芸スタートの大和へ、久慈なりのゲキにも聞こえる。

 1軍スタートで虎視眈々と二塁奪取を狙う荒木は言う。「併殺は呼吸が大事ですよ」。確かに、優勝した広島はセカンド菊池涼介が141試合、ショート田中広輔が143試合フル出場し、二遊間はガッチリ固定されていた。ちなみに昨年、阪神の内野陣は捕手を除き38通りものパターンがあった。 金本知憲は今、「レギュラーは福留と糸井だけ」と話す。つまり、まだ内野は誰一人として定まっていないのだ。陣形が固定されたチームはキャンプで呼吸合わせの感覚をどんどん磨く。悲しいかな。過渡期のチームはそんなところでも差をつけられてしまう。

 取れるはずの併殺が崩れ、走者を塁上に残す。当然、投手への余計な負担が増える。両リーグで唯一3ケタに満たない、併殺を取った数。勝ちきるうえで必ず修正しなければいけない命題だと思う。

 久慈は今キャンプで内野陣に基本をたたきこんでいるという。

 「攻めてボールを捕りにいこう。ボールを待つときも、攻めながら待とう。あえて高校生に教えるように基礎を伝えているんだよ」

 高校野球を思い出せ、か。そう言えば、かつて箕島で甲子園春夏連覇を達成した名将、尾藤公は教え子たちにこう伝えたという。

 「女の子に一度フラれても、くじけずもう一度いけ。一度フラれてもまだワンストライク。三度でも三振でまだワンアウト。野球もそう。攻めの姿勢が大事なんだ」

 最多失策の汚名は、攻めて、猛アタックして晴らそう。=敬称略=

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