【超変革を検証】「裸の王様」検証その2

 金本知憲は藤浪に161球を命じた後、その意義を自問自答していた。信念がブレることはなかったが、藤浪の心に「やらされた」感だけが残ってしまえば、ひと昔前の「しごき」でしかない。22歳といえば、まだ大学4年生の年。それでも、「日本のエースになってほしい」と願うからこそ「やりっぱなし」にするつもりはなかった。

 金本「肩はどうもなかったか?」

 藤浪「全然、なんともなかったですよ。去年も152球、投げてますから」

 これは「懲罰」の広島戦から1週間後の会話。7月15日、深夜のことだ。この日、ヤフオクドームで開催された球宴で登板した藤浪とコーチでベンチ入りした金本は試合後、福岡の繁華街で待ち合わせた。ほかに原口文仁、岩貞祐太、高山俊ら阪神の球宴メンバーも中洲の同じ料理店に集まったが、金本は藤浪と2人になる時間を別席でつくった。

 選手が監督に対し、すべて本心をぶつけられるかといえば、そうではない。金本はあえて酒席で膝を突き合わせることで、できるだけ本音に近い胸中を引きだそうとした。

 8回161球のあの日、初回に四球で崩れる醜態を繰り返した藤浪に対し金本は「きょうは責任を持って最後まで投げろよ」と通達した。膨れあがった球数を首脳陣は注視していたが、藤浪は前和田政権でも担当コーチの管轄下、昨季7月24日・DeNA戦で150球超えを経験している。金本とサシで対面した22歳はサラリとこう言った。

 藤浪「九回までいかされると思っていました。僕は、200球いっても投げるつもりでしたよ」

 金本はいつも「晋太郎は賢い投手」と言う。中洲の夜、その断片を確信できたことは意義深かったようだ。

 藤浪「自分はあまり怒られた経験がないですし、甘やかされてきていると思います。気がついたことは、どんどん言ってください。突き放すなり、何なりしてください。怒られたほうが、逆に頑張れることもありますので…」

 金本「分かった。じゃ、ほんまに怒るぞ」

 プロ野球界において、「裸の王様」に陥るのは監督に限ったことではない。若くして上り詰め、周囲が見えなくなる選手を何人か見てきた。

 自分にとって都合の良いことを言う人間だけを周りにおいて-である。

 球団、チーム内を聴取すれば「危険区域」の選手は浮かび上がる。金本は自身が「裸-」にならぬよう律するとともに、藤浪が「裸の王子様」にならぬよう、思案してきた。

 「晋太郎は恥ずかしがり屋で人見知りなところがあるから、誤解されやすいところもある。話をすれば普通にいい人間だから」

 シーズン後、金本はそう話した。そして「晋太郎は損をしていると思う」とも言った。

 金本に意見を求められ、金本を最も近くで見てきた腹心に聞けば、あの161球は「感情的にやっているだけのことではなかったから」と証言する。参謀役の矢野燿大である。(続く)=敬称略=

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