「4番失格」新井貴浩の報恩…金本監督も脱帽「いい場面で打っていた」

 「巨人4-6広島」(10日、東京ドーム)

 小雨舞う銀座一丁目の交差点。新井貴浩は傘もささず、待っていてくれた。僕は東京ドームで仕事を終え、23時過ぎに待ち合わせ場所へ向かったが、15分の遅刻。その夜、体調不良だった4番に悪いことをした。

 2011年の夏、僕は新井を「4番失格」と書いた。8月の月間打率・209。年間の得点圏打率は・305と悪くなかったが、勝負どころでことごとく期待を裏切っていた。

 新井はデイリースポーツを毎日読んでいた。彼には伝えなかったが、実は裕美子夫人も僕の原稿を「読みました」と言っていた。広島の実家でも長年デイリースポーツを購読してくれている。広島担当時代から長い付き合いになるが、あれほど辛辣(しんらつ)に書いたのは初めてだった。それ以来、新井と僕の間に気まずい空気が流れていた、ように感じた。球場で会えば話はするけれど、これまでとは一線を引いたような…。

 このままやり過ごすのはよくない。そう思い、食事に誘った。その年の秋口、巨人戦後に銀座の小料理店で2人で話をした。こっちが話を切り出す前に新井は鼻声で言った。「風さんは書くことが仕事だから仕方ない。打てない僕が悪い。打てばいいんだから」。

 あれは、北京五輪で星野監督から日本代表の4番を任された08年。メダルを逃し、傷心帰国した新井と成田空港で待ち合わせた。その夜、神戸に帰ろうとしたら台風で新幹線がストップ。やむなく品川で宿を取り、ささやかな慰労会…。「できればタイガースの4番は打ちたくないな…。金本さんはものすごいプレッシャーの中でやっているんですよ」。五輪の主砲がそう漏らした。それから2年後、フルイニング出場の途絶えた金本知憲に代わり、虎で4番を担うことになろうとは、このときの新井に想像できるはずもなかった。

 今だから書けることだが、新井が阪神退団を決意した夜、電話で話をした。「僕なんかがカープに帰れるはずがない…」。何度もそう言っていた。今春、広島の自主トレ拠点「アスリート」の平岡洋二代表から新井のトレーニング風景の映像を見せてもらった。「うぉりゃぁぁ!」。たった1人、気絶しそうなほどの気迫でバーベルを担ぐ新井の姿…。平岡は言った。「こんなあいつ、見たことない」。古巣への報恩。その一心で、身を隠し目をぎらつかせていた。

 この夜、神宮で金本は敗戦の弁を語った。「今年の新井は確かにいい場面で打っていた」。得点圏打率・352。98打点。カープ25年ぶり歓喜の中心で涙した男はいま、日本で最も輝く4番だ。=敬称略=(阪神担当キャップ・吉田 風)

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