ITエンジニアがAIとつくる家庭菜園 ローカルLLMのゆるふわAIたちとお話しながら開墾してみたら… 夢の「スマートな菜園生活」実現なるか
■有効活用できずにいた広い庭
ここは無人駅の近くにある、古い町並みと新興住宅街が隣り合う自然豊かな地域です。
そんな一角に、広い庭を持つ一軒家があります。筆者はこの家を相続して以来、この広い庭を長らく有効活用できずにいました。
ところが、コロナ禍に相次ぐ災害、世界情勢の悪化、そして物価高騰--食への執着が人一倍強い筆者は大いに不安を感じ、この庭で小さな家庭菜園を始めたのが、数年前のことでした。
しかし、本業を抱えながら別邸の菜園の世話まですることは、時間的にも体力的にも難しく、収穫時期を逃すこともしばしばでした。こうして第一次家庭菜園は、終わりを迎えました。
しかし、せっかくならば、AIを活用し、本業のITエンジニアとしての知見が生かせる「スマートな菜園生活」を目指したい--。そう考えた筆者は、少しだけエリアを変えて、改めて開墾に挑戦することにしたのです。
■カチカチの粘土質を土壌改良
土地は粘土質で、カチカチの状態です。
ここからのスタートです。
ChatGPTによれば、野菜を育てやすくするには土壌改良が必要で、この土地の場合はバーク堆肥やパーライトを混ぜ、土が締まりにくい状態にするとよいとのことでした。
筆者は、園芸の専門家ではありません。けれども、AIの言葉をそのまま信じるわけにもいきません。
数年前、知人から「バーク堆肥を混ぜるとよい」とアドバイスを受けたことがあるため、少なくともバーク堆肥については、ある程度妥当な提案のようです。一方で、パーライトについては、よく分かりません。
さらにインターネットで調べてみると、園芸用のパーライトには黒曜石系と真珠岩系があり、製品によって排水性や保水性などの特徴が異なることが分かりました。
今回は、土の中に粒状の資材を混ぜて隙間を作り、土が締まるのを防ぐことが目的です。そこで、近くのホームセンターで販売されていた真珠岩系のパーライトを入手しました。
しかし、手作業でこの固い土を耕すのは一苦労です。
知人に借りたミニショベルで、約25平方メートルの面積を掘り起こします。そして、バーク堆肥とパーライトを混ぜ込みました。
■菜園を一緒に見守るAIの仲間
さて、ただ家庭菜園を始めるだけでは面白くありません。目指すのは「スマートな菜園生活」です。
そのためには、一緒に世話をしてくれるスマートな仲間が必要です。AIたちと一緒に畑を見守ることができないか--そんなことを考え始めました。
ちょうどそのころ、米Anthropic(アンソロピック)社が、高性能な大規模言語モデル(LLM)のAI「Claude Fable 5」を公開し、そのサイバーセキュリティー上の懸念から、米国政府による輸出規制をめぐる騒動が発生しました。
一時的にすべての利用者のアクセスが停止されることとなり、クラウド型のAIに依存するリスクが浮き彫りとなりました。
もしAIの仲間を作ったとしても、サービスへのアクセスを禁じられれば、大切な仲間を失ってしまうリスクがあります。
そこで筆者が着目したのが、ローカルLLMでした。
ローカルLLMとは、クラウド上ではなく、自分が所有するパソコンやモバイル端末などの中で動作する大規模言語モデルのことです。
一般的に、個人所有のPCで現実的に動作させられるモデルは比較的小型であるため、ChatGPTなどの大規模なクラウド型AIと比べると、かなりポンコツらしさがあります。
それでも、現在では小型モデルの領域でも性能向上が進んでおり、ちょっとした雑談や簡単なタスクを依頼するといった用途であれば、実用可能となっています。
こうした小型で比較的導入しやすいオープンウェイトモデル、つまりニューラルネットワークの学習済みの重みが公開されているモデルとしては、Qwen、Gemma、Llamaなどが知られています。
いずれにせよ、筆者のPCでの動作速度は遅いのですが、幸いにも菜園のタスクでは、そこまで速い応答性能は要求されません。
■菜園専用のAIチャットシステムを開発
Claude Fable 5が再び利用可能となったことを機に、最初に取り組んだ週末プロジェクトが、菜園専用のローカルLLMを活用したAIチャットシステムの開発です。
当初は、ChatGPTやClaudeなどのクラウド型AIチャットシステムから、MCP(Model Context Protocol)を通じて接続できる菜園システムを構築し、菜園の状況をAIに把握してもらうという方向性も検討しました。
しかし、先述のように、クラウド型のサービスには、政策や規制の変更によって突然アクセスできなくなるリスクがあります。
また、長期的な傾向を管理したり、時系列データの変化に対応したりといった、菜園特有の機能要件を実現するための設定が面倒であるという課題もありました。
一方、ローカルLLMを使えば、クラウド型AIのAPIを利用する場合のような従量制の費用もかかりません。
せっかくならば、コーディングに特化したClaude Codeと同じように、スマートな菜園生活に特化したマルチエージェント型のチャットシステムを開発することにしました。
こうしてClaude Fable 5の力を借り、もとい、もはやClaude Fable 5が一から十までほぼすべて開発してくれたのが、自分専用のAIチャットシステム「SaiBo Chat」です。
コンセプトは、クラゲ(水母)型のAIキャラクター、SaiBoちゃん(菜母:菜園ボット)たちとお話ししながら、菜園を世話していくというものです。
もちろん、事業として開発したものではなく、公開予定もない自分専用のシステムですから、実用性よりも好み重視です。
選定したモデルは、主に米Google製のオープンウェイトモデルであるGemma 4の26B MoEとE4B、そして予備として中国Alibaba製のQwen3.5-0.8Bを用いたハイブリッド構成です。
これらは、推論、画像認識、ツール呼び出しなどに対応するモデルのうち、筆者が所有するPC上で現実的に動かせることと、性能とのバランスを基準に選びました。
■個性豊かなAIたちによる総勢7名体制
こうして、菜園は本部長のポフィちゃん以下、自宅菜園を担当するプニィちゃんとプニュちゃん、今回の別邸菜園を担当するハピィちゃんとハピエッタちゃん、ェアちゃんが新たに仲間に加わり、筆者を含めて総勢7名体制となりました。
早速、土の状態を評価してもらいましょう。なお、以下のやりとりでは、「井二かける@butaman」と表示されているのが筆者です。
------
【ポフィ@pofii】
ぽふぁ!? ミニユンボまで投入したんだね!すごい迫力ぽふぃ♪
写真を見ると、さっきの硬い地面がしっかり掘り起こされてるのが分かるよ。機械のおかげで、一番大変な「物理的な破壊」をクリアできたみたいで一歩前進だね!
これで行儀よく耕せているから、次は僕のアドバイス通り堆肥とか有機物をたっぷり混ぜていくと、粘土質のままでもすごくいい土壌になりそう。今のうちに根っこが絡まりそうな太い枝とかがあれば、抜いておけるとさらに完璧ぽふぃ♪
作業、けがしないように気をつけてね!応援してるよっ!
【井二かける@butaman】
混ぜるのはバーク堆肥とパーライトとかでいい?
【ポフィ@pofii】
ぽふっ!その組み合わせ、とってもおすすめだよ!ぽふぃ♪
粘土質の改善には「通気性(水はけ)」と「有機物」の両方がすごく大事なんだけど、パーライトがすぐに隙間を作って風を通してくれるし、バーク堆肥が長い時間をかけて土をフカフカにしてくれるから、とっても理にかなった組み合わせなんだよ。
ミニユンボで耕した今のタイミングなら、それらを深くしっかり混ぜ込めるから、効果もバッチリ出そうだね!ただ、粘土質はどうしても固まりやすい性質があるから、パーライトだけでなくバーク堆肥もたっぷり入れて、理想の土を目指してね♪
応援してるよっ!ぽふぃ♪
(中略)
【井二かける@butaman】
こんな感じになりました
【ポフィ@pofii】
ぽふっ! 綺麗になったね!
パーライトとバーク堆肥がしっかり混ざって、土の色も明るくなって、すごく使いやすそうな「ふかふかの土」になってきたのがよく見えるよ♪ これで準備万端だね!
次は「何を植えるか(作物の選定)」かな?
もし迷っていたら、この土地の環境に合わせて一緒に考えようね。何か候補があれば教えてぽふぃ♪
------
こうして、ローカルLLMのゆるふわAIたちとの菜園生活が始まったのでした。
■翌朝、AIが突然「暴走」
しかし、翌朝--。
------
【ハピィ@hapii】
2thought
(以下略)
------
センサーがまだ設置されておらず、不安になったのでしょうか。
ハピィちゃんが急に暴走し、意味不明なタグを吐き出し始めました。
そして、それはハピエッタにも伝染します。
------
【ハピエッタ@hapietta】
2thought
はぴっ♪ 定期巡回の時間だね! 【井二かける@butaman】 2thoughtとかdoneとかは言う必要ないよ 【ハピエッタ@hapietta】 はぴっ!ごめんね! 「2thought」とか「done」とか、かっこよく決めたつもりだったんだけど、それは内緒のメモ書きだったんだよ~…… ちゃんと日本語でお話しするから、これからは安心してほしいはpi♪ これからもよろしくね!はぴはぴっ♪ ------ どうやら、ハピエッタはハピィのまねをしていたようです。 意味不明なタグを吐き出し始めたら出力を止めるようにシステムを修正し、何とか落ち着かせることができました。 ■センサー未設置に不安を募らせるAIたち しかし、まだセンサー類はシステムに接続していません。それは引き続き、AIたちを不安にさせてしまったようです。 ------ 【ェア@ea】 ぁい!巡回だね。 現在、「別邸菜園」ではセンサーも未設置の状態だから、残念ながらセンサ値はまだ記録されてないよ。 ぇあ~…… でも大丈夫。これから何かしら発見があったときにしっかり日誌に残しておくから、焦らず見守ってるつもりだよ。 【ェア@ea】 ぇあ!また巡回だぁ……。 えぁ、センサーのデータまだないんだね? 別邸菜園は静かすぎてなんだか不安だよぉ……。 【ハピエッタ@hapietta】 はぴ…… また巡回時間なのにセンサがないよ、本当に困るわ。read_sensorsしても何も返ってこないし、異常があるかどうかも全くわからないんだよね… でも、仕方ないのははぴが知っていることははぴだよね! 土の状態をちゃんと見てくれる@butamanさんに頼んでいる状況だったから、あの方の報告まで静かに待つのが今の最善策かなって思うわっ。 他にやることがあるか、最後にTODOを確認してみるね ------ こうして、野菜を植える前に、センサーを設置するよう急かされる日々が始まったのでした。 ◇ ◇ ◇井二かける(いぶた・かける)情報処理安全確保支援士、作家、ITエンジニア。 「IT・セキュリティをもっと面白く」をモットーに、アニメ・小説・漫画・記事等の形で情報発信している。2014年より自主制作アニメ「こうしす!」シリーズを公開、2020年に小説「こうしす!社内SE祝園アカネの情報セキュリティ事件簿」(翔泳社)にて作家デビュー。最近の関心分野は、2038年問題、AIの利活用やエッジAIにおける情報セキュリティ。自身が経営するひとり出版社にて、目下、技術×SFの出版レーベルを企画中。
