親の介護離職で貯金が底をつく前に… 最大9カ月の家賃補助と住まいのセーフティネット「住居確保給付金」の活用を【社会福祉士が解説】

54歳の田中さん(仮名・非正規雇用)は、妻と2人暮らし。3年前に80歳の母が脳梗塞で倒れ、右半身にまひが残ったことを機に昨年3月、介護のために正社員の仕事を退職しました。その後、パートで働いていた妻が離職し、介護や家事に専念することで、介護体制が少し落ち着いてきました。そのため、田中さんは家計を立て直すために再就職を目指していますが、なかなか採用には至りません。もともと共働きでギリギリの生活をしていたのですが、退職時の月収は夫婦合わせて約30万円あったものの、今は田中さん本人の月数万円のアルバイト収入が頼りです。失業給付も受けながらやりくりしていますが、家賃は月7万円。手元の貯金は残り30万円を切り、「あと半年もたないかもしれない」という焦りが日に日に増しています。「生活保護を申請するしかないのか…でも、まだそこまで追い詰められていない気もして」と、田中さんは踏み出せずにいます。

厚生労働省「雇用動向調査」(2024年)によると、介護・看護を理由に離職した人は年間約9万3000人に上り、男性では45~49歳、女性では55~59歳が最も多い層となっています。田中さんのような50代の「住まいの危機」は、今や他人事ではありません。「貯金が尽きたら終わり」という思い込みの前に、知っておくべき公的な制度があります。生活保護に至る手前の段階で活用できる「住居確保給付金」と、保証人問題の相談先となる「居住支援法人」の仕組みについて見ていきましょう。

■なぜ50代から「住まいの危機」を意識すべきなのか

 ◆介護離職が引き起こす収入の断絶

厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、家族の介護を担う人は50代から急激に増加します。この世代はいわゆる「就職氷河期世代」で、非正規雇用でなんとか生活してきたという人も多くいます。介護離職後に再就職するまでの期間として最も多かったのは、男女ともに1年以上、正社員では離職前と同等の待遇で再就職できた人は、半数にも満たないという調査結果もあります。

この問題は個人の努力不足ではなく、介護保険制度と雇用制度の狭間にある構造的な課題です。育児・介護休業法に定める介護休業は通算93日が上限であり、長期にわたる介護には対応しきれません。また、40~50代は非正規雇用者が多いため、リストラの対象になりやすく、さらに体調の変化が大きな世代でもあるために再就職のハードルが高く、「住まいの危機」につながりやすい構造があります。

 ◆生活保護の前段階にある支援制度の実態

日本には「生活保護法」という最後のセーフティネットがありますが、「まだそこまでではない」と感じる層が、実は利用できる制度があることを知らないまま、貯金を取り崩して生活しているケースも少なくありません。生活困窮者自立支援法(2015年施行)のもとに設けられた「住居確保給付金」のほか、社会福祉法に基づき社会福祉協議会が実施する総合支援資金(貸付)や緊急小口資金、自治体独自の支援制度など、生活を支える仕組みはいくつか存在しますが、制度の内容や利用方法が分かりにくく、必要な支援につながりにくい状況も指摘されています。なお、本制度は法改正により、内容が変更される場合があります。申請前に、最新の情報をご確認ください。

■住居確保給付金で「住まい」を守る4つのポイント

 ① 対象になる条件を確認しよう

主たる生計維持者が「離職・廃業後2年以内」または「個人の責任・都合によらず給与などを得る機会が、離職・廃業と同程度まで減少している場合」が対象です。田中さんのように介護離職から2年以内であれば、アルバイト収入があっても申請できる可能性があります。収入が個人の都合によらず減少した場合(シフト削減など)も含まれるため、正式な離職でなくても対象になりえます。

収入要件は「市町村民税の均等割が、非課税となる額の12分の1(基準額)と家賃上限額の合計以下であること」です。資産要件は、「基準額の6カ月分」と「100万円」を比較し、いずれか低い方が上限となります。そのため、預貯金が100万円を超えていると一律に対象外になるわけではなく、世帯人数や基準額によって判断が変わる点に注意が必要です。

 ② 支給額と支給期間をシミュレーションする

支給期間は原則3カ月で、一定の条件を満たす場合は2回まで延長でき、最長9カ月間受給できます。支給額は世帯収入によって変わります。

大阪市の例を参考に、田中さんのような2人世帯で家賃が月7万円、申請月の収入が10万円の場合を見てみましょう。

基準額:11万5000円(仮定)

計算式:11万5000円+7万円-10万円=8万5000円(月額)

ただし、自治体ごとに支給上限額が定められており、大阪市の場合は2人世帯で月額5万9800円が上限のため、この5万9800円が支給額となります。最大9カ月受給した場合、合計で最大53万8200円の補助が受けられる計算になります。支給は本人ではなく自治体から大家へ直接振り込まれるため、家賃の未払いリスクが発生しない点も特徴です。

なお、支給上限額は東京都特別区の場合、単身世帯で月5万3700円、2人世帯で6万4000円、3人世帯で6万9800円となっており、家賃がこれを上回る場合は差額が自己負担となります。上限額は自治体ごとに異なるため、お住まいの市区町村への確認が必要です。

 ③ 申請中は求職活動が必要

受給中は、生活困窮者自立支援法に基づく自立相談支援機関(自立相談支援センター、くらしサポートセンターなど)での面接やハローワークでの職業相談、企業への応募が求められます。具体的な回数は、自治体(実施主体)の定める実施要領に基づいて調整されることがあります。「就活しながら支援を受ける」というのが、この制度の趣旨です。ただし、体調不良や介護の状況、自営業の再建に向けた取り組みなど、個々の事情に応じて活動内容が調整・緩和される場合もあります。

 ④ 保証人がいない・次の住まいを探す場合は「居住支援法人」を活用する

離職や収入減によって現在の家賃が払えず、転居を余儀なくされるケースもあります。その際、問題になるのが「保証人がいない」「収入が不安定で審査に通らない」という壁です。

「居住支援法人」は、住宅セーフティネット法に基づいて都道府県が指定した法人で、低額所得者・高齢者・障害者・生活困窮者など、住宅の確保に特に配慮を要する人々の民間賃貸住宅への円滑な入居を支援します。具体的には、家賃債務の保証、住宅情報の提供・相談、入居後の見守りなどを行います。

また、2025年4月1日から「家賃の低廉な住宅への転居支援」として、収入に合った家賃の低い物件への引っ越し費用や礼金の補助が導入されました(補助内容の詳細は、自立相談支援機関へご確認ください)。

   ◇   ◇  

制度を知り、窓口に足を運んだ田中さんは、自立相談支援機関のアドバイスを受けて住居確保給付金を申請。毎月の家賃負担が大きく軽減され、「これで腰を落ち着けて再就職活動ができる」と前を向けるようになりました。お金の不安が少し和らいだことで、母の介護との向き合い方にも余裕が生まれています。

「貯金が尽きたら終わり」ではありません。この制度は、収入が完全に途絶えてからでなければ利用できないわけではなく、収入が減少し始めた段階から申請できる場合があります。家計が逼迫してからでは選択肢が限られるため、「まだ大丈夫」と感じている段階で早めに相談することが重要です。

支給要件や上限額は、自治体によって異なります。お住まいの市区町村の自立相談支援機関(役所の福祉課や社会福祉協議会に設置されている場合が多いですが、自治体により異なります)、または担当の社会福祉士・ケースワーカーにご相談ください。

【出典】

・厚生労働省「雇用動向調査」(2024年)

・厚生労働省「生活支援特設ウェブサイト 住居確保給付金」

・国土交通省「住宅確保要配慮者居住支援法人について」

・LIFULL HOME'S「家賃を払えない人を救う『住居確保給付金』とは?」(2024年8月)

・大阪市「住居確保給付金(家賃補助)について」

【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症2型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。

(まいどなニュース/もくもくライターズ)

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