水害で自宅も介護ベッドも使えない!罹災証明書、支援金、仮設住宅… 災害時に知らないと損する、お金と申請期限【社会福祉士が解説】

田中さん(仮名・68歳)は、九州の川沿いの町で息子夫婦と3人暮らし。妻に先立たれてから10年、週3回のデイサービスと訪問介護を利用しながら、自宅で暮らし続けてきました。2年前に脳梗塞を発症し、右半身に軽度のまひが残って、要介護2の認定を受けています。歩行には杖が必要で、浴室の手すりや介護ベッドは生活に欠かせませんでした。

そんな田中さんの自宅が、梅雨の集中豪雨による河川の氾濫で、床上1メートルを超える浸水被害を受けました。介護ベッドも車椅子も、押し入れにしまっていた通帳も、すべて泥に沈みました。避難所での生活が始まったものの、「次に住む場所はどうなるのか」「介護はどうなるのか」「お金はいったい、どこから出るのか」--頭の中は不安でいっぱいです。

水害は、特定の誰かだけのできごとではありません。2020年から2024年にかけて、前線による広範囲・長時間の記録的な雨量が毎年のように続き、河川の氾濫、浸水害、土砂災害などが全国各地で甚大な被害をもたらしています。高齢者や障害のある人が被災したとき、行政や制度の「入口」が分からないまま支援を受けられずにいるケースは少なくありません。この記事では、被災後に使える制度を順を追って整理します。

■水害で住宅が被災したとき、何が一番の壁になるのか

水害による住宅被害は、「生活の基盤が丸ごと奪われる」という特徴があります。家財道具・書類・医療・介護に使う道具まで、すべてが一度に失われます。

しかし、多くの被災者が「制度があることを知らなかった」「申請のタイミングを逃した」という理由で、受けられるはずの支援を受けられないでいます。これは個人の情報収集の問題ではなく、被災直後の混乱の中で制度の全体像が示されないという、社会的な構造の問題でもあるといえます。

日本では「災害救助法」「被災者生活再建支援法」「介護保険法」など、法的根拠に基づいた公的支援が用意されています。ただし、これらはいずれも「申請しなければ支給されない」のが原則といえます。被災後は混乱の中で申請期限を見逃しやすく、特に高齢者や障害のある人は、情報へのアクセス自体が難しくなりがちです。

■被災後に使える5つの支援制度と手続きの手順

1.「罹災証明書(りさいしょうめいしょ)」を取得する

すべての支援制度の入口となるのが、市区町村が発行する「罹災証明書」です。これは住宅の被害程度(全壊・大規模半壊・中規模半壊・半壊・準半壊・一部損壊など)を公的に証明する書類で、あらゆる支援申請に必要になります。

申請先は原則として、被災した住宅が所在する市区町村の窓口となります。被災後はできるだけ早く申請し、その前に住宅内部の被害状況を写真で記録しておくことが重要です。

2.「被災者生活再建支援金」を申請する(最大300万円)

住宅が全壊・大規模半壊・解体などの被害を受けた場合に支給されるのが、「被災者生活再建支援制度」による支援金です。最大300万円が支給されます(単身世帯の場合は3/4の金額)。

支援金は、以下の2種類で構成されています。

◆基礎支援金(住宅の被害程度に応じて支給)

・全壊・解体・長期避難:100万円(単身世帯は75万円)

・大規模半壊:50万円(単身世帯は37.5万円)

◆加算支援金(住宅の再建方法に応じて支給)

・新築・購入:200万円

・補修:100万円

・賃貸(公営住宅を除く):50万円

つまり全壊して新たに家を建て直す複数世帯の場合、基礎支援金100万円+加算支援金200万円=合計300万円を受け取ることができます。

申請先は、原則として「被災当時にお住まいの市区町村」となります。基礎支援金の申請期限は災害発生日から13カ月以内、加算支援金は37カ月以内とされています。加算支援金は住宅再建の方向性が決まってから申請する形になりますが、基礎支援金については早めに動くことが大切です。

なお、この制度は一定規模以上の災害(全壊世帯数などの条件)を満たした市町村が対象となるため、被害の状況によっては適用されない場合があります。また、原則として全壊・大規模半壊・中規模半壊が対象で、半壊以下は対象外(例外あり)です。まずは、お住まいの都道府県や市区町村のお知らせを確認してください。

3.介護保険の利用料・保険料の「減免」を申請する

被災後も、介護サービスは継続が必要です。しかし「被災後は他にも、いろいろとお金がかかりそうだから」と、利用を控えてしまう人は少なくありません。実は、ここに大きな見落としがあります。

地震や水害などの災害で住宅などに著しい被害を受けたときは、申請により介護保険料が減免される場合があります。減免される金額は、住宅や家財がどの程度損害を受けたかによって判断されます。また損害の程度に加えて、前年度の合計所得を加味して決められるケースもあります。

また、介護サービスの利用料(自己負担分)についても、市区町村の判断で減額・免除が行われる場合があります。

申請先は「お住まいの市区町村の介護保険担当窓口」です。減免の詳細条件は自治体によって異なるため、まず窓口に相談することをお勧めします。

4.流された福祉用具の「再手配」の手続きをする

田中さんのように介護ベッドや車椅子、手すりといった福祉用具を使っていた人にとって、それらが水害で失われることは命に直結する問題です。

介護保険でレンタルしていた福祉用具(介護ベッド・車椅子・歩行器など)は、担当のケアマネジャーに連絡すれば、新たな居住場所への再手配が可能です。仮設住宅や親族宅に移った場合でも、介護保険の住所変更手続きを経れば、引き続き利用できる可能性があります。

また介護保険証(被保険者証)を紛失した場合も、市区町村窓口で再交付を申請できます。まず、ケアマネジャーへの連絡を最優先にしてください。

5.高齢者・障害者向けの「応急仮設住宅」への優先入居を申し込む

応急仮設住宅には一般的なプレハブ型と、高齢者などで日常の生活上、特別な配慮を要する複数の人を収容する「福祉仮設住宅」があります。これは、訪問介護やデイサービスなどの在宅福祉サービスを継続して利用しやすい構造・設備を備えており、バリアフリー仕様となっています。

また、民間の空き部屋を自治体が借り上げる「賃貸型応急仮設住宅(みなし仮設)」という選択肢もあります。供与期間は災害救助法が適用される最長2年間で、その間は都道府県が家賃などを負担します。

入居申込みは市区町村窓口で行います。高齢者・障害者・要介護者のいる世帯は、優先的に選定される運用が各地で行われている可能性がありますので、遠慮せずに申し出てください。

   ◇   ◇  

田中さんは、避難所で知り合った社会福祉士の支援員に声をかけられたことで、罹災証明書の取得から被災者生活再建支援金の申請、そして福祉仮設住宅への優先入居までの手続きを一つひとつ進めることができました。介護ベッドもケアマネジャーを通じて仮設住宅に搬入してもらい、デイサービスも近隣の事業所に引き継がれました。

「制度を知っているかどうかで、こんなに違うとは思わなかった」という田中さん。同じように感じる人も多いのではないでしょうか。

水害後の生活再建は、一人で抱え込むものではありません。制度の壁は、使い方を知れば「階段」に変わります。「動こうかな」と感じた今が、最初の一歩を踏み出すタイミングです。

支援の詳細や手続きは、地域・災害の規模・時期によって異なります。まずは、市区町村の福祉担当窓口・地域包括支援センター(高齢者の場合)・相談支援専門員(障害のある人の場合)・担当のケアマネジャーにご相談ください。

【出典】

・内閣府 防災情報のページ「被災者生活再建支援制度の概要」

・内閣府 防災情報のページ「公的支援制度について」

・公益財団法人 都道府県センター「被災者生活再建支援事業:支援金支給概要」

・国土交通省「応急仮設住宅建設必携 中間とりまとめ」(2012年5月)

・朝日生命「公的介護保険料の免除・減免は可能?」

・応用地質株式会社「台風や豪雨などの水害から身を守るには」

【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症2型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。 

(まいどなニュース/もくもくライターズ)

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