「うえち」と「かみじ」 主流はどちら? 「光る君へ」で道長の兄・道綱役の上地雄輔 地域で変わる読み方

大河ドラマ「光る君へ」で、藤原道長の異母兄道綱役をつとめる上地雄輔。財前直見演じる道綱の母は「蜻蛉日記」の作者として有名で、古文の授業で習ったという人も多いだろう。ドラマでは藤原寧子となっているが、実際には名前はわからず、教科書には「藤原道綱母」として掲載されていた。

さて、上地雄輔の名字「上地」は「かみじ」と読む。この読み方を珍しいと感じるだろうか。それとも普通の読み方と感じるだろうか。

「上地」という名字は珍しい名字ではない。現在「上地」さんの6割以上は沖縄に集中しており、沖縄ではかなりメジャーな名字である。そして、沖縄の「上地」さんはほぼ「うえち」である。宮古島や読谷村に「上地(うえち)」という地名があり、今でも宮古島と読谷村には「上地」が非常に多い。因みに沖縄では「下地」という名字も多い。

沖縄以外で「上地」が多いのは和歌山県で、ここでは「うえち」と「かみじ」がほぼ半数ずつ。隣の三重県では「うえち」と読む地名があることから、圧倒的に「うえち」が多い。それ以外の地域だと「うえち」と「かみじ」に分かれることが多い。

そもそも「上地」のように「上」のつく名字は多い。一般的に「上」には2つの意味がある。

1つは文字通り周囲より標高の高いところを指す。そしてもう1つは実際の標高には関係なく「かみ手」を指すものだ。川だと上流の方向が「上」である。この場合はまだ標高と一致しているが、道の場合はその地域の中心部に近いところが「かみ」で、実際の標高とは関係ない。

全国規模でみると、京に近い方が「上」で、反対が「下」となる。例えば、新潟県では京に近い西部が「上越」で、反対側が「下越」である。

従って、「上地」は標高が高いところや、かみ手にあるところに住んだ人が名乗ったものだろう。こうした場所は全国にあることから、「上地」という名字も各地にあり、読み方も「うえち」と「かみじ」に分かれている。

しかし、沖縄に大量の「うえち」さんがいることから、全国を集計すると8割以上が「うえち」で、「かみじ」と読むのは2割に満たない。とはいえ「かみじ」と読む「上地」も珍しい名字というわけではない。因みに上地雄輔の出身地・横須賀市では「かみじ」と読むことが多い。

◆森岡 浩 姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部卒。学生時代から独学で名字を研究、文献だけにとらわれず、地名学、民俗学などを幅広く取り入れながら、実証的な研究を続ける。NHK「日本人のおなまえっ!」にコメンテーターとして出演中。著書は「47都道府県名字百科」「全国名字大事典」「日本名門名家大事典」など多数。

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