「日本語字幕監修 LiLiCo」に血管沸騰 母国の名作映画で夢叶えた 「納品を終えた時の祝福のお酒…最高よ!」

「夢の実現とは“つらさ・大変さ・怖さ”を乗り越えた先にある」。

そう実感を込めるのは、タレントで映画コメンテーターのLiLiCo(52)。母国スウェーデンの名作映画『刑事マルティン・ベック 超・特別版』Blu-ray(発売中)で、20年来の夢だった字幕翻訳家デビューを果たした。

18歳で来日するまでスウェーデンに生まれ育ったLiLiCoにとって、日本語翻訳を務めたスウェーデン語はもちろん母国語。余裕しゃくしゃくのデビューかと思いきや、言うは易く行なうは難し。なんと1年半もの苦闘となり、涙すら枯れるハプニングにも見舞われた。果たして、翻訳家LiLiCoが「つらさ・大変さ・怖さ」を乗り越えた先に見たものとは?

■ゲームクリエイターの小島秀夫も熱狂

1976年製作の『刑事マルティン・ベック』の原作は、スウェーデン生まれの大人気刑事小説シリーズ。日本でも根強い人気を誇る。スウェーデンでは原作シリーズのテレビドラマ化などもあり、LiLiCo曰く「日本で言うところの『釣りバカ日誌』くらい国民的なシリーズもの」なのだとか。「中でもこの『刑事マルティン・ベック』は、愛の物語しかなかった当時のスウェーデン映画界において異色の傑作スリラーとして超有名。スウェーデン人の親友に翻訳を担当したことを告げたら、そこの家族全員にビックリされました」と反響を語る。

多くの表現者にも影響を与えており、ゲームクリエイターの小島秀夫も「マルティン・ベックの映像化作品としては、本国製作の本作が唯一無二!」と太鼓判を押す傑作。そのBlu-ray化に際して、LiLiCoは本編の日本語字幕監修に加え、スタッフ&キャストによる音声解説と特典映像の日本語字幕の翻訳を担当した。

「スタッフ&キャストによる撮影当時を振り返るコメンタリーや、特典映像のドキュメンタリーでは製作秘話や演出意図などが紹介されていて凄く面白いです。サブスク全盛時代にあって、特典映像という作品の百科事典に触れられるのはソフトならではの良さ。今回の翻訳仕事を通して『刑事マルティン・ベック』に一層ハマりました」と映画好きとして喜色満面にあふれている。

だが翻訳作業はスタート時から苦難の連続だった。というのも音声解説や特典映像には台本が存在しておらず、スウェーデン語を耳で聴いて書き起こすという作業が待ち受けていたからだ。本編の日本語字幕翻訳を担当した落合寿和によると、その字幕数は映画本編4本分に相当するそうだ。

LiLiCoは「しかもスウェーデン語とは言っても、滑舌、その人のしゃべり方のクセ、監督・脚本のボー・ヴィーデルベルイさんはスコーネ地方特有のなまりがあるのに加えて、その瞬間の感じたままを言葉にする人。スウェーデン歴18年の私でさえ『あれ?私スウェーデン語がわからないの!?』とパニックになった」と振り返る。

■初めて心が折れかかった絶望的ハプニング

字幕には表示する最大文字数と時間が決められているが、スウェーデン人ならではの特性も壁になったらしい。

「スウェーデン人は話の途中で話題を切り上げて“あとは察してね”という様なしゃべり方をする傾向にあるので、その人が何を言わんとしているのかを日本語で意訳する必要があります。そのような彼らの話し方を聞いたときに、スウェーデンにいたころの自分もそうだったと懐かしくなりました。ちなみに私が多弁になったのは、芸能デビューしたばかりの頃のマネジャーから『喋ることがないなら帰れ!』と指摘されたのがきっかけ」と大笑いする。

LiLiCoならではのワーキングスタイルも凶と出てしまった。普段からパソコンではなくスマホで原稿執筆をしていることから、今回の翻訳仕事もスマホでこなしていたのだが…。

「すべての翻訳を終えて全データを納品しようと思ったら、8本のデータのうち、保存期間が過ぎているという理由で5本のデータが削除されていた…。私は10年くらい車上生活をして色々な修羅場も潜りましたが、字幕データが5本消えたと知った瞬間の恐怖はそれに勝りました。いまだかつて感じたことのない絶望感。ボディビルに挑戦した時に食事制限があまりにも辛くて2回泣きましたが、今回は涙も枯れすぎて芸能生活をスタートさせて初めて心が折れかかりました」

その瞬間を思いだすと今もゾッとするそうだ。

■手に入れた自分への大きな自信

多忙な芸能活動を縫っての翻訳作業。字幕翻訳の第一人者・戸田奈津子に伝えたところ、「初めてで聴き起こし翻訳!?心労お察しします」とまで言われたハードルの高い仕事。「ほかの仕事との掛け持ちは絶対に無理!」と痛感もした。さすがのLiLiCoも、もうこりごり?

「想像以上に大変な仕事で、途中投げ出しそうにもなりました。でも完成してBlu-rayとして発売されて、この映画を好きでいてくださる方が楽しんでくれていると思うと、そんな痛みなんて全部忘れた!」と豪快に笑い飛ばす。

翻訳作業の興奮は今も冷めやらない。「“もっと挑戦したい!”と思う自分がいます。商品ジャケットに記されている『字幕監修:LiLiCo』という文字は顔を近づけないと読めないくらい小さいけれど、これを私はやり遂げたという自信はとても大きい。夢の実現とは“つらさ・大変さ・怖さ”を乗り越えた先にあるもの。私はその扉を開くことが出来ました」

『刑事マルティン・ベック 超・特別版』のBlu-rayを手に、柔和な表情を浮かべる。「翻訳作業中はスウェーデンと日本の血液が血管の中で大沸騰して体中から生きている音がした。無事に全字幕データを納品し終えた時の快感と祝福のお酒の味は…最高だったわよ~!私のこれまでの人生の中で最もチャレンジングなお仕事でした」

今年で来日35年。人生の大きなステップになったと確信している。

(まいどなニュース特約・石井 隼人)

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