いつか訪れる愛猫や愛犬との別れ 絵本『ただいまねこ』が伝える「一緒に過ごした時間」という宝物 「いつか会いに来てくれると考えて」

長い時間を家族として過ごした猫ちゃんやワンコが虹の橋を渡ったときは、辛く悲しいものです。ペットロスをきっかけに元気が出ない人も多く、こうした関連の本も多数刊行されています。

ペットロスを抱えた人の気持ちに寄り添い、優しく背中を押してくれるような絵本が登場しました。『ただいまねこ』(ミヤザーナツ・著、NHK出版)です。読者から「泣ける」「心が温かくなる」といった感想が届き、発売から1カ月あまりで増刷が決まりました。

■仲間たちとの日々

この絵本の主人公は黒白猫のちびた。ちびたは毎日おいしい食べ物に囲まれ、たくさんの仲間たちと穏やかで幸せな日々を送っていました。

ある日のこと。仲間の猫・モジャがちびたに「今日は久しぶりに家へ帰る日だよ」と言い出します。急にそんなことを言われて戸惑うちびたでしたが、何を言っているのかわからないままモジャについて歩いて行きます。すると、行った先では、たくさんの猫たちが嬉しそうに列を作り何かを待っていました。

■ちびたを迎えに来たキュウリのバス

ちびたも列に並んでいると、わけもわからず渡された三角の布を頭につけることに。そのときふと、あることを思い出します。

「ぼくは あかりちゃんちの ねこ だった」(ちびた)

目の前に現れたのは、割りばしの脚を持ったキュウリのバス。そこにちびたがまたがると、キュウリのバスは背中にちびたを乗せて、ビュンビュンと進んできます。すると、遠くの方に「あかりちゃん」とかつて過ごした懐かしい家が見えてきました。

■ペットとの時間を肯定する大切さ

この後、ちびたがどうなったかは、絵本で見ていただきたいですが、ここからのシーンは本書の中でも最も印象深く、心の奥がジンワリするものでした。

編集を担当したNHK出版の祝(ほおり)さんによると、ちびたは著者のミヤザーナツさんが8年前に亡くした愛猫がモデルです。絵本が完成するまでを振り返り、その中で揺れ動いていたミヤザーナツさんの感情の変化を語ってくれました。

「制作過程でミヤザーナツさんの気持ちが変化していくのを感じました。ちびたがこの世を去ってから時間が経っているものの、傷は完全に癒えたわけではなく、いまだくすぶる『負の感情』から距離をとろうとしていらっしゃるようにも見受けられました。しかし、本書のクライマックスでもある飼い主のあかりちゃんとの再会のシーンを描き上げられたとき、何かを乗り越えられたような印象を受けました」

ペットロスに悩む読者とミヤザーナツさんの目線は同じなのでしょう。それゆえに、苦しみの中から亡き愛猫への思いが広がりを生むことができたようにも感じます。

「私事ですが、絵本の見本ができる直前に、愛猫を亡くしました。11歳の誕生日を迎えたばかりでした。晩酌をして気が緩むと、つい涙がこぼれてしまいます。そのようなとき、支えてくれるのがこの絵本です。愛猫はきっと、ちびたのように仲間たちと毎日ごろごろ、穏やかな日々を過ごしているはず。そして、いつか私たちに会いに来てくれると考えると気持ちが少し楽になります。本書は猫が主人公の絵本ですが、猫好きの方に限らず、ぜひ手にとっていただきたいと願っています。なぜなら、大切な存在との別れは誰にでも突然やってくるものだから。喪失感はそう簡単には消えませんが、『一緒に過ごした時間を肯定する大切さ』を教えてくれる作品です」と祝さんは語りました。

この絵本は、ペットとの悲しい別れを乗り越えた先にある、穏やかな新しい幸せを描いています。あなたにとって大切な家族だったペットの姿を思い浮かべながら読んでほしい一冊です。

(まいどなニュース特約・松田 義人)

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