やっぱりすごいぞ!スピルバーグ版「ウエスト・サイド・ストーリー」クラシック音楽家が魅力語る 100年後も愛される珠玉の名曲たち
あのスピルバーグ監督が!? あの伝説的ミュージカルを!? と驚いた人も多かったのではないだろうか。1957年にブロードウェイ・ミュージカルとして誕生し、61年の映画化でさらにセンセーションを巻き起こした「ウエスト・サイド物語」が、巨匠スティーブン・スピルバーグによって再び映画化され、日本でも「ウエスト・サイド・ストーリー(以下WSS)」のタイトルで2月11日に公開された。物語を彩る「Tonight」「America」「Somewhere」といった不朽の名曲の数々にも新たな命が吹き込まれた本作を、クラシック音楽家はどう見たのか。大阪交響楽団のコンサートマスターでヴァイオリン奏者の林七奈さんに聞いた。
■色褪せないバーンスタイン作曲の音楽たち
林さん、WSSの楽曲は演奏会などで「これまで100回は弾いたことがある」とか。今回のスピルバーグ版を見てあらためて、作曲家レナード・バーンスタインが生み出した楽曲の色褪せない魅力に感じ入ったという。
「やっぱりどの曲も、どの旋律も、シンプルに美しいですね。それに尽きます。特にWSSの音楽はこの先100年経ってもきっと愛され、演奏され続けているでしょう。指揮者としても知られるバーンスタインは本当に偉大な作曲家で、例えば稀代の“メロディ・メイカー”であるチャイコフスキーやベートーベン、モーツァルトにも比肩し得る存在だと私は思っています」
■スピルバーグ版で際立つ「映画」としての魅力
また61年版と比較して印象的だったのは、スピルバーグの手腕もあってか、「映画」作品としての完成度がグッと増しているように感じられたことだと林さんは語る。61年版を愛してやまないヴァイオリン奏者の夫、豊嶋泰嗣さんの興味深い感想も教えてくれた。
「61年版は、良くも悪くも登場人物のキャラと顔がとにかく濃くて、クセも強かった(笑)。ダンスのキレも、もしかしたら今回よりすごかったかもしれません。でもスピルバーグ版は、ストーリーも音楽も61年版と同じなのに、音楽と映像がより一体となって伝わってくる不思議な感覚がありました。歌も踊りも素敵で、もちろん十分にミュージカル映画なんだけど、決してそこに特化していない感じというか…。物語が下敷きにしている『ロミオとジュリエット』や舞台版、61年の映画版を知らなくても、自然と理解できる作りになっています」
「10歳上の夫は61年版に対する思い入れが強すぎるので、『あれを超える映画はできない』と言っていましたけど、私は違うものなんじゃないかなと思います。61年版をずっと愛していて、今度のスピルバーグ版が気になっている人もきっと多いはずですが、両方見比べて楽しめると思いますよ。私の夫も何だかんだ言いながら結局すごく楽しんでいましたから(笑)」
林さんは夫婦で見て大いに盛り上がったというスピルバーグ版WSS。「音楽家としても、こういう形でWSSという作品にまた光が当たることがすごく嬉しい」と声を弾ませる。
「バーンスタインを知らない世代に彼の音楽の素晴らしさを知ってもらえて、もしかしたら『生で聴いてみたい』とクラシックのコンサートに足を運ぶきっかけになるかもしれない。実際、WSSの曲って今でも演奏される機会が多いんです。今回の映画から新しいファンが生まれるなら、こんなに嬉しいことはありません」
(まいどなニュース・黒川 裕生)