ついに卒業「生まれた時ぐらい泣いた」試合盛り上げるパフォーマンスにかけた8年間 リーダーの思い

「もうほんまに、生まれた時ぐらい泣きました」

オリックス・バファローズがリーグ優勝した瞬間を笑顔で振り返るのは、球団公式ダンス&ヴォーカルユニット「BsGirls(ビーズガールズ)」のリーダーCHAL(チャル)さんだ。BsGirlsが発足した2014年から活動を続け、自身の卒業を発表した最終シーズンにチームが優勝。最高の花道を演出してくれた。1月16日のライブをもって卒業するCHALさんに、8年間を振り返ってもらった。

BsGirlsは、CHALさんを含めてヴォーカルが4人、他にパフォーマー10人という構成。オリックスの試合前後やイニング間にグラウンドでパフォーマンスする。特筆すべきは、彼女たちが「チアリーダー」ではないということ。大手事務所「エイベックス」所属の音楽グループで、毎年シングル曲をリリースするほか、単独ライブも開催する。

■最初は「補欠」

CHALさんは大阪府出身。14年、グループの発足とともにパフォーマーとして加入した。倍率が100倍を超える厳しいオーディションを勝ち抜いたが、実は当初、補欠メンバーの扱いだった。練習には参加できず、リハーサルも見学するだけ。「野球選手で言うと育成。いや、育成にもならないかな…。そこから這い上がってメンバーになって、こんなに長く続けられるなんて想像もできませんでした」

発足時、BsGirlsは球界初の取り組みとして話題を呼んだ。メディアに取り上げられる機会も多かったが、実際にオリックスファンから受け入れられている感覚は薄かったという。「ポンポンを持って踊る、いわゆるチアの形とは違うので…。あまり良く思わない人、違和感を持つ人もいたと思います」。試合前のステージで、数えるほどしか観客がいないことも珍しくなかった。またCHALさん個人としては、ダンスで他メンバーと実力差を感じることが多かったといい、チームの練習以外にダンススクールに通い、地道に技術を積み上げていった。

■2014年V逸の悔しさ、歌詞に投影

この年のオリックスは序盤から好調。球場に観客が増えるにつれ、BsGirlsの活動も盛り上がりを見せていった。もともと野球は「人並みに好きなぐらい」だったCHALさんだが、波に乗るチームをサポートできることが楽しかった。パフォーマンスにも力が入り、プライベートでも1人のファンとして関東の球場まで応援に駆け付けた。オリックスというチームにのめり込んでいった。

チームは一時、リーグ優勝のマジックを点灯させたが、10月にソフトバンクとの天王山に敗戦。惜しくも2位になった。泣き崩れる伊藤光選手、ベンチで頭を抱えるT-岡田選手、安達了一選手らの姿はCHALさんの脳裏に焼き付いている。「すごく心を動かされました。絶対優勝したいという思いがより強くなったと思います」。あと一つでも多く勝っていれば、ソフトバンクとの順位は入れ替わっていた。

その後、BsGirlsはシングル「ひとつ」をリリース。作詞はCHALさんが担当した。

 ♪君と走り続けていく 栄光へ

 ひとつの勝利で見えてくる未来

 ここから始まるour story 終わらない

 proud of team. We’re Buffaloes.

これ以外にも、「あの日流した 涙の理由を そう、ずっと胸に 忘れないでいて」と、ストレートに情景描写を盛り込んだ。

CHAL さんは2016年にリーダーに就いたが、チームはBクラスで低迷を続けた。そんな中、勇気をもらったのは、岸田護投手(現投手コーチ)が19年の引退セレモニーでファンに伝えた「これからオリックスは絶対に強くなります」という言葉だった。「やっぱりそうやんな!って。もう一度チームを信じるきっかけになりました」

■卒業を意識

卒業を決めた明確なきっかけがあったわけではないが、活動5年目に入った18年の終盤から「次の世代のBsGirlsのことを考えないと」と意識するようになった。19年から「サブリーダー」をつくり、自分の経験を伝えることに重きを置いた。翌年、新型コロナウイルス禍に見舞われた。プロ野球そのものが中止になってパフォーマンスできなくなった。当然ライブも開けない。インスタグラムのライブでパフォーマンスを披露したり、Zoomでメンバーの自宅をつないでトークの様子を配信したりするなど工夫を凝らした。また、この自粛期間を生かして「幸せの輪」というバラード曲の歌詞を書き上げた。

 ♪当たり前が何よりも特別だって教えてくれた

 この気持ち 忘れないよ

 何があっても きっと 乗り越えられるさ

コロナ禍で改めて気付かされたこと。メンバーやファンと過ごせる、当たり前だった日常のありがたさを表現した。「伝えたい思いが膨れて、結局まるまる1カ月かかりました」と振り返る。「コロナがあってもやり残したことはない」と、どんな状況でも精いっぱい駆け抜けてきた自負をのぞかせた。

■ラストシーズン、まさかの快進撃

2021年1月、CHALさんはそのシーズンをもって卒業することを発表した。通常、BsGirlsの卒業発表はシーズン終了後だが、スタッフから事前の公表を打診されたという。グループを長年支え、ファンに親しまれてきたCHALさんだからこその計らいだった。相次いでスポーツ紙が報じるなど話題になり、SNS上では他球団ファンからも卒業を惜しむ声が相次いだ。球団も「CHALボブルヘッド」といったグッズ付きチケットを発売するなど多彩なイベントを展開。「本来であれば私たちの立場では経験できないこともたくさん経験させていただいた」と感謝を口にする。

そして何より、チームが開幕当初から快進撃を続けていた。BsGirlsは1回表、選手が守備につく際にベンチの前に並び花道をつくるが、そこで選手たちから伝わってくる覇気が「例年とは違った」とCHALさんは話す。どれだけ前日に大差をつけられ負けていたとしても、選手全員でハイタッチをして鼓舞し合い試合に臨む。過去にはベンチから暗い雰囲気を感じた時もあっただけに、「今年はひょっとするかも」という期待が頭をかすめた。その予感は的中する。チームは6月に交流戦を制し、その後も11連勝するなど上昇気流に乗った。「交流戦優勝の11年ぶりでもピンと来なかったのに…。25年ぶりのリーグ優勝が目の前に迫ってるってなった時は、これは現実なのかっていう(笑)。毎日勝ち続けてたので、夢みたいな日々でした」

■赤ちゃんぐらい泣いた

10月27日。優勝争いの行方はロッテの試合結果に委ねられることになったため、本拠地京セラドーム大阪に選手や関係者が集まり、ビジョンでロッテの試合映像を見守った。BsGirlsのメンバーもスタンドにいた。そして9回ロッテが敗れ、オリックスの優勝が決定。

選手たちは一斉にベンチを飛び出し、マウンドで歓喜の輪をつくった。CHALさんは手で顔を覆って涙を流し、一番長く共に活動してきたパフォーマーのMIYUさんと抱き合った。「もう、生まれた時ぐらい泣きました(笑)。赤ちゃんみたいに…」。ベンチから飛び出す選手たちを見て、こみ上げるものがあった。「優勝から離れていた25年、何百人という方たちがつなげてきた夢がやっと一つになった瞬間を目の当たりにできた。私にとって最後のシーズンにその瞬間を見られて、本当に幸せです」とCHALさん。話しながら、再び目頭を熱くした。

その後、クライマックスシリーズではロッテを相手に3連勝し、日本シリーズ進出を決めた。本拠地のファンの前で中嶋聡監督らが胴上げされ、グラウンドを一周してファンの歓声に応えた。BsGirlsもグラウンドにいたため、CHALさんがその場でメンバーに「挨拶しよう」と声をかけた。外野スタンドまで歩きながら手を振ると、「CHAL」と書かれたタオルを掲げて応えてくれる人が大勢いた。私設応援団も太鼓をたたいてねぎらってくれた。「嬉しかったなあ…。リーグ優勝の時はその場でファンの方と分かち合えなかったので、なおさら嬉しかったです」

■大舞台でパフォーマンス

クライマックスシリーズと日本シリーズでは、新曲「GO ALL TOGETHER」を披露。CHALさんが最後に作詞を担当する集大成の曲となった。実は、曲の制作が決まったのは10月の始め。とにかく時間がなかった。「そこから曲が上がってきて…。確か3、4日ぐらいかな。連戦続きでしたが寝ずに詞を作りました」と笑う。試合のパフォーマンスの間にもノートとにらめっこ。さらに、BsGirlsメンバー全員に夢というテーマで届けたい言葉や思いを尋ね、フレーズに合わせて歌詞の中に散りばめた。「メンバーにとって一生心に残る、ここにいたっていう証を残せる曲にしたい」という思いを込めた挑戦だった。

 ♪手を伸ばし 描いてた 終わることのない物語

 いくつもの時を超え 紡がれた願いが今

 いつまでも絶やさないで その祈り捧ぐ熱を

 Let's win with all 決意込めて 勝ち上がれ

日本シリーズで、チームは神戸に帰らずして敗退する危機を乗り越え、何とか第6戦で戻ってきてくれた。実は、レギュラーシーズンの9月、ほっともっとフォールド神戸での2021年最後の試合が開催されたが、その時はBsGirlsメンバーの1人がコロナに感染した影響で活動を休止していた。「ほっともっとは大好きな球場。卒業前にもう一度パフォーマンスする機会をいただけて本当にうれしかったです」。全員の思いを込めたGO ALL TOGETHERを精いっぱい歌い、踊った。

目まぐるしく駆け抜けたシーズンが終わり、今はファイナルライブに向けて練習漬けの日々を送る。BsGirlsは毎シーズン、既存メンバーも含めてオーディションが行われる厳しさもある。「球界初の取り組みである以上、そこから毎年進化し続けなければならないグループだと思う」とCHALさん。「今までの歴史も背負いつつ、どんどん新しいことにも挑戦してほしい」と後輩にエールを送った。

■「BsGirlsの活動を超えるものはない」

最後に、CHALさんは8年間をこう振り返った。

「当初は、留学してもっとダンスを学びたい、色んなステージに立ちたい、などたくさんの夢がありました。しかし活動を通して、BsGirlsとして活動していくこと、チームの勝利、優勝が夢と目標のすべてになりました」

「パフォーマンスをするということだけで考えれば、今よりもさらに大きなステージやここでは経験できなかったこともたくさんあったかもしれません。でも私の中では、これから先もBsGirlsの活動を超えるものはないです」

「毎年オーディションが行われる以上、油断は許されない状況で、日々大きな覚悟の中、8年間常に悔いなく全力で過ごしてきました。オリックス・バファローズに出合って、ファンの皆様、メンバー、たくさんの方々と出会い、共に戦い過ごした日々が宝物です。すべてを捧げたいと思う大好きなこの場所で、表舞台での人生を終えたいと思い引退を決断しました」

「卒業後は、一人のオリ姫としてチームを応援していきたいですし、ここでの活動を糧に、微力かもしれませんがまた違った形でチームにも恩返ししていきたいと思っています。ファンの皆様、これからも末永くよろしくお願いします!」

(まいどなニュース/神戸新聞・小森有喜)

※パフォーマンス写真はオリックス・バファローズ提供

◇ ◇

CHALさんの卒業ライブとなる「BsGirls FINAL LIVE 2021」は、1月16日午後3時から、大阪市天王寺区の大阪国際交流センター大ホールで開かれる。ライブの詳細情報やチケット購入はオリックスの公式サイトを参照。

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