GoToトラベル等の喚起策は、今必要なのだろうか? 豊田真由子が欧州感染再拡大とGoToトラベルを考察<後編>

GoToトラベル等の喚起策は、今必要なのだろうか? また一方で、現在、欧州で問題になっているように、今後、仮に日本国内で感染再拡大が起こった場合、国民は再度の自粛生活を強いられることになってしまうのだろうか。欧州感染再拡大とGoToトラベルを考える、今回は後編。

今回、閣議決定された政府の経済対策(55.7兆円)には、補正予算で、GoToトラベルに約2700億円、GoToイートの延長や飲食店の感染防止対策に約600億円が計上されています。

(※)GoToトラベルは、来年1月末のスタート予定で、旅行代金の30%(ツアー上限1万円・宿泊のみ上限7000円)、地域共通クーポンは、平日3000円・休日1000円。ワクチン・検査パッケージの活用が条件とされています。

GoToイートの食事券の販売や利用期限は、各都道府県の判断で決まり、地域によっては、期間が来年のゴールデンウィーク前後まで延長されることになっています。(実施中:28道県、感染再拡大で停止中:7都府県)

私は、どんな政策にも、①必要性、②内容の妥当性、③実現可能性、が求められると思っています。限られた財源の効果的な活用という観点からは、厳に考えるべき点だと思います。

そうすると、GoToトラベル・イートに関して言えば、政策効果として、GoToを行った場合と行わなかった場合で、経済効果に大きな差があるか、すなわち、「GoToがなければ、旅行や外食に行かないけれど、GoToがあることで旅行や外食に行くことにする、という人がどれくらい増えるか。追加の消費がどれくらい増えるか。」といったことが、本来はきちんと検証されるべきなのだと思います。

上記の効果については、厳密には、大規模で精緻な比較検証を行わないことには、実際のところはなかなか判明しないわけなのですが、コロナ渦でずっと旅行を我慢してきた方は多いと思いますので、「旅行に行く一定の余裕のある方」は、GoToがなくても行かれるのだろうと思います。そして、困窮している方は、旅行に行く余裕など無い、という場合が多いと思います。

それに、GoToは、感染が再拡大すれば中止となり、一方、感染が落ち着けば、もともと人気のある場所や施設は、GoToがなくとも活気を取り戻す、と言われます。

■“幸せ”になることを目的とする再構築を

京都市観光協会によると、11月15日~21日の人出は、GoToがあった去年並みに回復し、特に20~21日は、コロナ渦前と同じくらいの日本人観光客が訪れたということです。

ただし、近隣府県から来た方が多く、東京など遠方からは以前よりも少なく、そして、京都は通常平日も埋まることが前提だそうですが、今は週末だけであり、さらに、インバウンド(海外観光客)がいない、ということで、手放しで喜べる状況にはないようです。また、九州など遠方への修学旅行を予定していた学校が、距離と日数を短くするために、京都に変更するといったこともあるようで、そうした場合は、平均単価は高くないと推測できます。

そうすると問題は、

・紅葉シーズンに限らず、今後復調が持続的なものとなるか。

・京都のような超観光名所でない観光地は、どうやって回復させられるか。

・今後インバウンド回復に向けた水際対策などの制限緩和と、それによる実際の人の動きはどうなっていくのか。

といったこと、つまり、コロナの経験を踏まえた上での、観光業界の今後、ということを、業界だけではなく、政府も緻密に考え直す必要があります。GoToによる利用者への補助は、観光事業者への一時的な助けになったとはしても、観光や飲食業界に生じている問題の根本的な解決にはならないだろうと思います。

そして、コロナ渦で傷んでいるのは、GoToの対象となるこうした業界だけではない、という声にどう応えていくか、という大事な問題もあります。

そうした思いも持ちつつ、ここでは観光業について、ちょっと考えてみたいと思います。

コロナ前の2019年の日本国内における旅行消費額(27.9兆円)を見ると、日本人の国内宿泊旅行が61%、日本人の国内日帰り旅行17%、訪日外国人の旅行17%となっており、インバウンドを伸ばしていく余地は大きくあるといえる一方で、依然として主力は日本人の国内旅行と日帰り旅行であり、特に、コロナ渦で海外との往来(海外旅行とインバウンド)が制限される中では、まずはここを強化することが効果的かつ現実的であるといえます。

また、2019年の訪日外国人旅行者の内訳を見ると、総数3190万人のうち、83%がアジアからで、そのうち東アジア(中、韓、台湾、香港)70%、東南アジア(タイ、フィリピン、マレーシア、シンガポールなど)12%、そして、米国5%、欧州5か国4%となっています。

こうしたデータから見えてくるのは、まずは国内旅行向けに、そしてアジア中心にインバウンドを見据えて、「コト」や「イミ」消費によって、リピート・滞在型の再構築を図る、「おいしい、たのしい、やすらぐ、からだによい」といった付加価値や、地域を“活性化”し、住む人・働く人・訪れる人が“幸せ”になることを目的とする再構築を行うこと等が求められていると思います。

■他の先進国は現金給付から移行している

今回の政府の経済対策については、追加の歳出31兆5627億円に地方交付税交付金などを加えた補正予算案の総額35兆9895億円とする方向で調整中です。具体的には、税収6兆4320億円と昨年度の剰余金6兆1479億円等を充てることに加え、国債を22兆580億円発行してまかなう方針です。

「効果的な経済対策とは」という問いの答は、簡単ではありません。ただ、国民の税金と国債(という国の借金)ですので、どんな状況であれ、その使い途は、本当に必要なところに、そして、実際に効果があるものに限定しようとする努力は必須です。

他の先進国を見ると、新型コロナ対策としての財政支出は、当初の現金給付的なものから、デジタル化やグリーン化等のイノベーション・産業育成の方向に移ってきています。

新型コロナ発生から2年近くが経ち、感染再拡大の懸念はあるものの、基本的にはコロナ渦においても社会経済をきちんと回していこうという動きの中で、我が国が過去最大規模の経済対策を打ち出すこと、財源に将来的な国民負担といった懸念があること、そして、どれほどの効果がもたらされるのかを検証すべき、といった問題を認識しておくことが大切だと思います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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