豊田真由子が政府に緊急提言 緊急事態宣言はほとんど効果が無い、発想の転換が求められている

東京五輪が開幕し、一方で、新型コロナの感染拡大が止まりません。

■感染急拡大が起こっているが…

 アスリートの方々のこれまでの血の滲むような努力や強靭な心身の力、そして、支えてこられたご関係の皆様に、心より敬意を表します。本当に素晴らしいと思います。日本と世界の人々が、大きな感動や勇気を与えられていることも、紛れもない事実だと思います。

一方で、以前より懸念申し上げていた、新型コロナウイルスの感染拡大が現実化しています。新規感染者数は7月28日に、東京3177人、千葉577人、神奈川1051人、茨木194人、埼玉870人、京都175人、石川119人で、いずれも過去最高を記録しました。

私は以前より、新興感染症に対処するに当たっては、国民の不安を過度に煽るようなことは望ましくないと考えています。一方で、できる限り公正かつ有用な分析と情報をお届けするのが、ささやかな己の使命だとも思っています。

そうした観点から、現状や今後の方向性について、少し考えてみたいと思います。

■緊急事態宣言は、もはやほとんど効果が無い

4度目の緊急事態宣言発出(7月12日)から2週間以上が経ったわけですが、「現在の感染状況は、おおよそ2週間前の人々の行動の結果を反映している」ということに基づけば、現時点の状況を見る限りは、今回の緊急事態宣言の効果はほとんど出ていない、ということになるのだろうと思います。

これは、長期にわたる“緊急事態”宣言で、もはや緊迫感や納得感がなくなっていること、感染力の強いデルタ株の流行、連休・夏休みといった事情に加え、東京五輪で世の中もメディアも大いに盛り上がる中で、「日本国民は我慢して」「外出しないで。集まらないで。親族や友人にも会わないで。飲食しないで。お酒飲まないで。」と言われても、もはや説得力に欠けるということも大きいと思います。

一般論として、人が行動変容を起こすのは、強制力によるもののほかは、「そのことについて、納得し、必要と感じ、自ら行動を変える」ということが、大きいはずです。そうすると、現下の五輪開催や、他国の感染防止の規制緩和・撤廃の状況というのは、明らかに逆の効果をもたらすものとなっています。

五輪関係者でコロナ陽性者は155人(組織委員会が発表を始めた7月1日から27日までの感染者の累計)で、現時点では、直接的な国内の感染拡大への影響はほとんどないということだとは思いますが、問題はそこではなくて、五輪開催により、緊急事態宣言等とは逆の国民へのメッセージ効果が、非常に大きいということです。

■「感染者は増えても、重症者が増えていないから問題はない」というのは本当か?

7月28日の東京都の発表では、感染が確認されたのは3177人で、年代別で見ると、20代が最も多い1078人、次いで30代が680人で、40代以下が82.8%を占めていて、65歳以上の高齢者は95人でした(7月27日時点)。

入院者は2864 人で、そのうち軽症・中等症2782 人、重症82 人(※)、宿泊療養1827 人、自宅療養6277 人、入院・療養等調整中3404 人、そして亡くなられた方は6人となっています。確保病床数に占める入院患者の割合は48.0%、重症者病床数に占める重症者の割合は20.9%(国の基準だと、58.2%(7月26日時点))です。

(※)以前から問題にされていますが、国と都の「重症者」の定義が異なっており、国は、集中治療室(ICU)に入っている方ですが、都はその中で人工呼吸器とECMOを装着している方に限っています。私はこれは統一すべきと考えます。定義の異なるものを比較しても、本来、意味をなさないからです。

なお、これまでの東京都の一日の最多新規感染者は2520人(2021年1月7日)、重症者は160人(1月20日)、死者は32人(2月3日)です。

全国では、新規感染者9576人、重症者522人、死者8人となっています(7月27日時点)。

確かにピーク時と比較すると、新規感染者数に比して、重症者・死者の状況は押さえられており、重症化しやすい高齢者のワクチン接種が進展していることの効果が出ているといえます。

ただ、感染者が大幅に増えていけば、当然重症者も増えていきますし、実際の入院患者数だけでなく、例えば、東京都の「入院・療養等調整中3404名」の中に、入院が必要な方・今後重症化する可能性のある方がどれくらいいらっしゃるのか、といったことも気になります。

基本的には、早期に必要な治療を行うことで重症化を防ぐことができるのであり、この春の大阪のように、入院先が決まらず治療が遅れることで重症化が進み、自宅や宿泊療養施設で亡くなる方が続いてしまったことは、非常に残念なこととして、記憶に新しいところです。

東京都が7月27日に開催した、新型コロナの患者を受け入れている都内の医療機関(およそ170)向けの説明会では、都からさらなる病床の確保が要請され、そのために、救急医療の縮小・停止、予定している手術の延期、一部診療科の停止など、通常医療の制限を検討して、病床の転用・確保が求められました。都は「現在、確保している病床」の5967床を、8月6日をめどに「最大で確保できる」としている6406床まで増やしたいとしています。

しかし、通常医療の制限が必要ということは、すでに医療に影響が出ているということです。例えば、がんの検診や受診数等も大きく減っており、手遅れとなってしまうことが危惧されます。

医療機関の方々にも話を聞きますが、「新型コロナの重症者は少なく、医療逼迫はしてないから、このままで大丈夫!」という状況ではないだろうと思います。

人口当たり病床数が世界一の日本で、新型コロナ病床が不足することの原因や解決方法は、これまで繰り返し申し上げてきたところなので、今回は述べませんが、感染症対策の最重要事のひとつは、死者を出さないということですので、1年7か月経ってなお、我が国で病床不足が懸念されるのは、本当に残念なことです。

当初感染者・死者が非常に多かった米国や英国では、既存病床の活用のほか、コロナ専用の病棟・病院を大規模に新設するなどして、大幅に病床を増やしました。このまま感染拡大が続くのであれば、そうした抜本的な方策を、日本も考える必要が出てくるのではないでしょうか。

また、若い方でも、味覚嗅覚障害や倦怠感などの深刻な後遺症が、長期にわたって残る可能性等も踏まえると、各々の方が、可能な範囲で、感染防止策を講じていくことは、引き続き、とても重要だと思います。

ただし、政府としてこれまでと同じやり方を繰り返すことでよいのか(効果があるのか、適切といえるのか)といった点については、多少の発想の転換が必要かもしれない、と思うようになりました。

■海外では、新型コロナに関する規制の緩和・撤廃をしている国もあるが、日本は?

最近、「世界には、ワクチン接種が進み、感染防止のための国民の規制を緩め、社会経済活動を再開させている国もあるのに、日本は厳格過ぎるのでは?」というご質問を受けます。ワクチン接種率のほかに、ここで考慮すべき重要な点として、「その国の過去の感染状況がどのくらいであったか。そして、感染が再拡大した場合に、国民がどこまでそれを許容できるのか。医療が対応できるか。」といったことがあると考えています。

そして、いったん緩和した国も、感染が再拡大して規制を再強化するといった形で、どこも悩みながら迷いながら、なんとか前に進んで行こうとしている、という状況です。

いろいろと他国の関係者の話を聞くと、感染状況が極めてひどかった国では、多少感染者が増えても「あの頃よりはマシ」と考え、受け入れられる傾向にありますが、一方、感染が抑えられてきた国では、少しでも感染が拡大することについて敏感に反応し、なんとかそれを避けようとする傾向が強い、ということがいえると思います。

具体的に申し上げると、例えば、ロックダウン解除、マスク着用やソーシャルディスタンス確保の緩和・撤廃といった措置を取ってきている米国、英国、イスラエルを例に取ってみると、これまで、感染ピーク時の一日の新規感染者数・死者数は、米国(人口3.3億人)は25万人・3400人、英国(同6700万人)は6万人・1250人、イスラエル(人口920万人)は9千人・60人、一方、7月26日時点での一日の新規感染者数・死者数は、米国5.7万人・270人、英国は3.6万人・65人、イスラエル1400人・2人です。

いずれの国も、ピーク時はもちろん、現時点でも、人口当たりで見て、感染状況が日本よりかなりわるい中で、規制が緩和・撤廃されてきていることが分かります。

ただし例えば、米国では、7月28日、「感染拡大地域においては、ワクチン接種完了者も屋内でのマスク着用を推奨する」とCDCの指針が再改訂され、オランダでは、6月下旬に社会活動の再開を進めたものの、感染者が急増し、規制解除が時期尚早だったとして、7月12日から規制再導入となりました。

一方で、感染がほぼ抑えられてきた国、例えば、ニュージーランド、オーストラリア、台湾などでは、数名といった非常に少ない感染者数でも、国内で発生すれば、なんとか封じ込めようと、厳しい国境封鎖やロックダウンが繰り返されています。これに対して、例えば、オーストラリアのシドニーやメルボルンでは、7月24日、ロックダウンに反対する大規模なデモが行われ、警察と衝突が起こりました。

どの国・地域も試行錯誤が続きます。

これについては、「これがただ一つの正解!」というものでは、おそらくなく、基本的には価値判断の問題であり、最終的には、国民がなにをどこまで許容するか、そうしたことも踏まえた国家の政策判断ということになると思います。

その意味においては、病床やスタッフ等の医療の状況を抜本的に改善する方策を取ることができれば(ここはぜひ思い切ってやっていただきたいと思います)、ワクチン接種の進展も踏まえ、これまでと同じ「自粛!我慢!外出不可!時短!会っちゃダメ!飲食ダメ!」の繰り返しではなく、“コロナと共生していく”という現実への多少の方針転換も、可能性としては考え得るのではないかと思います。

■発想の転換が求められている

どなたにとっても、2021年の夏は、人生でこの1度きりです。子どもも若者も大人も高齢者も、会いたい人に会える、できるはずだったことを制限のある中でもできるだけ行える、かけがえのない経験をできる、それを可能にする方策を考えていくときに来ているのではないかと思います。(なお、「規制を撤廃して、感染者がどんどん増えても構わない」といったことを申し上げているわけでは、全くありません、念のため。)

少なくとも、世界中から9万人、日本国内で30万人の関係者が動き、連日大変な盛り上がりを見せる五輪を開催している中で、国民には「緊急事態宣言」が出され、そして、予想された通り感染者が急増すると、「ダメ!国民はもっと我慢を!」という、心に響かぬ空虚な言葉が繰り返されるという、このちぐはぐな状況を漫然と続けるよりは、その方が、国民の静かな怒りや苦しみや絶望を、しっかりと受けとめ、誠実に対応しようとしているということになるのではないでしょうか。コロナとの闘いが1年7か月となる今、国民が何を望んでいるか、を精緻に知ることも重要だと思います。

リスクもコロナも「ゼロ」にはなりません。「安全安心」は、誰かがそう言ったからそうなるものではなく、あくまでも、ファクトに基づき、受け手の側がどう感じるかの問題です。

謙虚に真摯に前向きに、真に人類の英知と力を発揮した夏になるかどうか、日本も世界も、正念場ではないかと思います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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