本離れ時代に図鑑の表紙作りがSNSで盛り上がる…「100歳」の投稿者も登場、その正体は?

 スマホで読める電子書籍の普及などで「紙媒体の書籍離れ」が指摘される昨今、皮肉にもSNS上で「本の表紙作り」を楽しむ人たちの投稿が盛り上がっている。「小学館の図鑑NEO」が今年元日から、同シリーズのロゴと投稿者が自由に選んだタイトルと画像を組み合わせたオリジナル表紙を公募。そのフォーマットを配信したところ、開始数日で数十万件の作成数があったと報じられた。架空の書籍を作る面白さに目覚めた人たちによって、当初の想定を逸脱した発想も飛び交う。締め切りの30日を前に、この現象を分析し、投稿者に思いを聞いた。

 「NEO」は2002年に刊行された小学館の図鑑シリーズ。3歳から小学校高学年までの子どもを対象とし、表紙には「昆虫」「植物」「動物」「鳥」「恐竜」「きのこ」「魚」「宇宙」「乗りもの」といった各テーマを示すタイトルが赤文字で大きく記されている。

 公式ツイッターでは元日に「こんな図鑑、あったらいいね。図鑑NEOのオリジナル表紙を作っちゃおう」「3000円の図書カードを10名様にプレゼント」と呼びかけて募集。表示されたURLから導かれるフォーマットに、作りたい題材のタイトルを記入し、画像を張り付けると、表紙の正面、さらには本棚や平積みにされた状態の画像が作成できる。

 続々と投稿されている中から、枠をはみ出した例を検証した。

 例えば「掟ポルシェ」「ミスターチルドレン」といった実在の人物や、アニメキャラ。あるいは「虫」であっても「クモヒメバチ」「キノコバエの飼育方法」「ノミバエの沼」といったニッチなもの。子どもの図鑑というイメージを覆すギャップ系では、東映の実録路線でも活躍した名優が表紙になった「反社」、通天閣やフグの張りぼてが登場する「新世界」、会社員の日常をイラストで表紙に描いた「社畜」、真っ白な表紙の「虚無」。あの号泣議員が表紙になった「日本の議員」や、カルロス・ゴーンとローワン・アトキンソンが並ぶ「ゴーンか?ビーンか?」といった社会ネタに至っては、もはや図鑑ではなく、パロディだった。

 その中で、おしゃれな老人が表紙の「坂上弘 百歳」に注目した。「坂上弘(さかうえ ひろし)令和2年数えで百歳最高齢ラッパー【公式】」さんが20日に更新したツイッターで、画像と共に「坂上弘です。本になったかと思っちゃったよ。今の携帯電話はすごいね」と、つぶやいている。さっそく、この投稿者にコンタクトを取った。

 坂上さんは大正10(1921)年生まれの歌手にしてラッパー。戦前の満洲から戦後の東京でトランぺット奏者として活動し、紆余曲折を経て、米寿となる2009年に大手レコード会社から「世界最高齢」でメジャーデビュー。アルバムでは一青窈ともコラボし、クレイジーケンバンドの横山剣やm-floからもリスペクトされているという、知る人ぞ知る存在だ。

 坂上さんは当サイトの取材に対し「今年、数えで100歳になります。その記念にと、私のガールフレンドが『こんなのがあるのよ』って教えてくれてね。携帯電話をいじって代わりに作ってくれた。たいしたもんだ」と明かした。

 では、この本の表紙に込めた思いとは?坂上さんは「今年は東京五輪があるでしょ。オリンピックまでは元気でいたい。昭和39年の前回は私も40代でしっかり覚えてるけど、もう一度、東京で体験できるとは思ってなかったから楽しみなんだ。五輪開幕前までに都内でライブをやりたいです。この本の表紙も、そのPRになればうれしいね」と笑顔で語った。

 ツイッターに投稿された数多(あまた)ある図鑑の表紙から、まさに「本題」とは離れたところで、大正から令和までを生き抜いた人生が垣間見えた。

(デイリースポーツ・北村 泰介)

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