日本公開40年、色褪せない「ゾンビ」の魅力とは 映画評論家と異色の研究者がトーク

ジョージ・A・ロメロ監督によるホラー映画の金字塔「ゾンビ(原題:Dawn of the Dead)」(1978年)の「日本初公開復元版」劇場公開を祝うトークイベントが13日の金曜日、シネ・リーブル梅田で開かれた。ゾンビに造詣の深い映画評論家ミルクマン斉藤さんと、国際ファッション専門職大学の助教にして異色のゾンビ研究者として知られる福田安佐子さんが登壇。ロメロ作品に代表されるゾンビ映画の系譜やメッセージ性などについて、縦横無尽に語り合った。

■設定が緩いのがゾンビの魅力?

まずは気になる福田さんだが、1988年生まれで専門はホラー映画史、表象文化論、身体論。ゾンビ映画に関する論文も書いており、「ゾンビの小哲学」(マキシマム・クロンブ著)の翻訳も手掛けるなど、日本ゾンビ界で独自の地歩を固めている。大学では「ゾンビについて本気で学ぶ」授業を担当しており、ゾンビ学をテーマに世界初の博士論文を書くことを目標にしているという。

ゾンビのメイクで登場した2人は「ヘルニアで腰が痛い。腰が痛いゾンビってどうなん?痛みがないから関係ないんかな」(ミルクマンさん)/「ゾンビになった方が生きるのが楽ですよ」(福田さん)などと、のっけから絶好調。「ゾンビの定義って『死者が蘇って生者の肉を食らう』を筆頭にいろいろあるんですけど、ゾンビで一番面白いのは、映画によってその設定がかなり甘いところ。なんでも許されてしまう緩さが好きです」と福田さんが話すと、ミルクマンさんが「そう、ゾンビは緩い。逆に、例えばヴァンパイアは血統主義みたいなところがあって、ルールがかなり厳しいんですよ」と応じるなど、打てば響く絶妙なやりとりを繰り広げた。

■ブードゥー教から生まれたゾンビ

2人によると、ゾンビが映画に登場するようになるのは1930年代から。そのモデルとされるのは「ハイチに伝わるブードゥー教の司祭が、生きた奴隷をつくるために薬品で人間を仮死状態にさせていったん埋める。で、蘇生した後はずっと薬物中毒にして飼うというやつ」(ミルクマンさん)だという。「結構簡単で、フグの毒で仮死状態にして、ダチュラの毒で麻痺状態にすると言われていますよね」と福田さんも笑顔で怖いことを言う。

「最初期のゾンビであるベラ・ルゴシ主演の『ホワイト・ゾンビ』(1932年)や、ジャック・ターナー監督の『私はゾンビと歩いた!』(1943年)あたりは、そんなブードゥー教の流れが強く反映されている。1968年にロメロのゾンビ映画第1作『Night of the Living Dead』が登場したことで、今に続くゾンビの形が決定づけられた」(ミルクマンさん)

「ハイチのゾンビもいい感じに引き継ぎつつ、ロメロによって新しい今のアメリカに即した形でゾンビが進化したんですよね」(福田さん)

2019年はそんなロメロのゾンビ映画第2作である「ゾンビ(Dawn Of the Dead)」が日本で公開されてからちょうど40年に当たる。この名作には「ディレクターズカット版(139分)」「ダリオ・アルジェント監修版(119分)」「米国劇場公開版(127分)」があるのだが、実はここ日本には幻の“第4のバージョン”が存在した。それが「日本劇場公開版(115分)」だ。配給する日本ヘラルド映画によって、1作目が劇場未公開だった日本の観客向けに、「冒頭の惑星爆発」「残酷シーンの静止画、モノクロ処理」などの独自の編集が施されているのだが、音声や映像が他の映像作品からの流用ではないかと噂されるなど、なかなかのものだったらしい。

残念ながら初公開時のプリントは失われてしまったが、40周年を祝うべく、ゾンビを愛する人たちが「ないならば作ってしまおう」と立ち上がり、日本で独自に(勝手に)足された映像や字幕をCGなどで一からリメイク。クラウドファンディングで資金を集め、ついに「日本初公開復元版」として全国の映画館で上映されることになった。申し遅れましたが、このトークイベントは、シネ・リーブル梅田の公開初日を盛り上げる企画であります。

■映画「ゾンビ」の色褪せない魅力

本作についてミルクマンさんは「あの時代に黒人がヒーローというのが革新的。ベトナム戦争の影が濃く反映されたテーマも深い」と語る。「それと、ゾンビがショッピングモールに集まるところはやっぱり面白い」という指摘を受け、福田さんも「あの時代の『別に欲しいものはないけど買い物に行きたい』という欲望自体を皮肉っていますよね。ちょうど郊外にショッピングモールができ始めた時期で、ゾンビ映画で社会をどう切り取るかというロメロらしさが出ています」と補足した。

話は「ビデオの登場とゾンビ映画の関係」「ゾンビのメイクが青っぽい理由」など際限なく広がっていったが、当然、あえなく時間切れ。「万人向けではないけど、ゾンビ仲間がいたら見るように勧めといてください」と締めつつ、「あと1時間くらい喋れるのに」と名残惜しそうに会場を後にした。

「ゾンビ -日本初公開復元版-」はシネ・リーブル梅田で上映中。京都シネマで12月21日、神戸の元町映画館で2020年1月1日から公開予定。

(まいどなニュース・黒川 裕生)

「ゾンビ -日本初公開復元版-」公式サイト https://www.zombie-40th.com/

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