「ウイルス感染で懲戒処分」なんてセキュリティ対策はどうよ?…自主制作アニメ「こうしす!」最新作公開

「コンピューターウイルスに感染したら懲戒処分」…そんな対策をとっている会社があれば、情報セキュリティ的にはとんでもない逆効果!…架空の鉄道会社で起こるITのトラブルをコメディタッチで描く自主制作アニメ「こうしす!」の最新作が公開され、話題になっています。クビになるのが怖くて、ウイルス感染を黙っていたら…運送管理システムがトラブって、列車が全線止まっちった!…きっと私のせいだわ!でも、バレたらみんなクビになっちゃうし!どうしよう、どうしよう、どうしよう!

「こうしす!」とは、「こちら京姫鉄道 広報部システム課」の略称です。兵庫県姫路市に本社を持ち、京都と姫路の間に路線を持つ中堅私鉄「京姫鉄道株式会社」を舞台に、情報セキュリティ対策に奮闘する社内エンジニアのどたばたが描かれています。 2014年4月に「Windows XP」のサポート期限切れをテーマとした第1話を公開して以来、3作目となります。

今回のテーマは「セキュリティの完璧を求めるのは間違っているのだろうか」。会社の上層部が「ウイルス感染ゼロ。情報セキュリティ事案ゼロ。これがトーゼン」と言い出し、問題の報告さえも許さない雰囲気を作ってしまったとしたらどうなるか…。 いわゆる「完璧主義」では限界があることを、4つのパートによる物語で描くといいます。

2017年10月に公開されたパート1では、「ウイルス感染に直面した社員が厳罰を恐れてトラブルを隠蔽」するところが描かれ、2019年9月に公開された最新作・パート2では、「隠蔽によって初動体制が遅れ、深刻なトラブルが発生する」という展開に。サイバー攻撃が多様化する昨今、情報セキュリティ対策は『被害を受ける前提』で体制を構築することが求められているといい、残るパートで対応策が紹介されます。

…と書くと、とても難しい内容のようにも思えますが、登場するキャラクターはみんな個性豊か。いわゆる「会社っぽい」人間模様も描かれ、技術的な知識がなくても、楽しめるようになっています。ネットには「めちゃくちゃ笑えて面白かった」「セキュリティ系勉強してるけど勉強になる!」という声のほか、「こうしすの内容はマジで社内あるある」「各現場の独特なバタバタがひしひしと感じられ、個人的には色々な意味でヒヤッとする作品」という意見もあがっています。

■約14分17秒を作成するのに2年

監督の井二かけるさんに聞きました。

-情報セキュリティをテーマにしたアニメは大変珍しいように感じています。

「アニメという親しみやすい表現を通して、特に若手20代やこれから就職を目指す人に、ITトラブルのことを知ってもらおうと思っています。たまたま第1話を作っているときに、WindowsXPのサポートが終了するという話題を取り上げたこともあり、セキリュティをテーマに扱い続けています」

-作品はどのように作られていますか。

「2012年から「OPAP-JP」という、ネットでアニメをオープンに制作する非営利のプロジェクトを立ち上げて制作しています。 クラウドファンディングで資金の調達もしながら進めています。最新作は約14分17秒の長さですが、作成するのに2年ほどかかりました」

-ええっ、2年ですか!?アニメって大変な手間がかかるんですね…。

「多くの無償・有償ボランティアの人たちが関わっており、最新作は68人の方を作中のクレジットで紹介しています。特にそのうち、アニメの作画には27人が関わっています。 Linuxなどオープンソースのソフトウェアを作るときの方法も参考にしながら作業を進めています。第3話はあと2パートあるので、スピードを上げたいと思っています」

■守秘義務があるので、自分の仕事のことはアニメにしていません

-井二さんご自身、ITに関わるお仕事をされているのでしょうか。

「自分の本業はプログラマーです。もともと9時5時で働くまじめな会社に勤めていたのですが、活動との両立のため、現在は在宅勤務が可能な会社に転職しています」

-システムの話や鉄道会社の様子など、高いリアリティを感じます。アニメの題材には、ご自身の業務経験が生かされたりしていますか。

「セキュリティの事案に元ネタはありません。情報セキュリティに関する資格(情報処理安全確保支援士)も保有していますが、業務で取り組んだ場合には守秘義務が発生しますので、その内容をアニメのヒントにすることはありえないです」

-てっきり、交通やインフラ関係企業の社内エンジニアの方なのかと思いこんでいました…。

「舞台として鉄道会社を選んだのは、自分自身が鉄道好きだった…というのもありますけど、仕事で関わっている分野ではない業種を取り上げたいと思ったからです」

「作品中の会社名『京姫鉄道』についても、存在しない鉄道会社名というのはもちろん、一度路線が計画されたのち、事業が中止された路線名を使っています。そういった名称は再び復活することはないので、実在しているものと混同されないと考えました。アニメ中の関西を想起させる風景も著作権的に問題がないか検討していますし、本社として使っている旧・姫路モノレールの大将軍駅の様子も室内・室外ともに取材を行い、その際に利用許可を得ています」

-そういった細かい配慮ひとつひとつが、より一層、情報セキュリティを扱っているアニメらしいなとも感じます…。

「ちなみに、鉄道会社を作品の舞台に選んで都合がよかったことがあります。鉄道の場合、重大な事故が起こると、国土交通省から調査報告書が出されるため、事故の内容や対応のプロセスがよく分かるんです。情報セキュリティについても、こういったかたちで情報公開が行われていれば、取り組まれている人たちに役立つだろうなと感じています」

■しかし…なぜ「広報部システム課」?

-あと、最後にひとつ。なぜ作品のタイトルは「広報部システム課」なのですか。社内システムの管理を「広報部」がしている会社って、あまりないと思うのですけど…。

「昨今のサイバー攻撃による被害の増加にともない、組織の中にCSIRT (シーサート: Computer Security Incident Response Teamの略)という専門対策チームを設けることがありますが、セキュリティチームは社内外に情報提供をする広報的な役割もあります。アニメでは予算があまった部署に作られた設定なのですが、まわりまわってセキュリティの観点からすると、実は最先端の取り組みになっているんです」

-関心を持ってもらうこともセキリュティということですね。

「情報セキュリティは技術的なことと考えられがちですが、実は文化的な側面も強いんです。すべての人達がセキュリティのリスクを『自分のこと』として考えられるように、親しみやすい物語形式の作品を通じて発信していきたいですね」

(まいどなニュース・川上 隆宏)

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動画はニコニコ動画、もしくはYoutubeにアップロードされています。過去の作品も含めて、下記の公式サイトからご覧いただけます。

https://kosys.opap.jp/

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