10月に消費税率引き上げ、「デフレ脱却」で駆け込み需要なし?

 21日に投開票した参院選では自公の与党が過半数を獲得し、10月には消費税率を10%に引き上げることがほぼ確実になった。8月、9月と残る2カ月は税率引き上げ前の駆け込み需要に沸くのかというと、必ずしもそうではないようだ。今夏の個人消費動向は、とても低調という見方が強まりつつある。もしかすると「駆け込み需要すら起きない」という事態になるほど、国内の個人消費の勢いは弱いかもしれない。背景には意外にも「デフレ脱却」が考えられる。

 明治安田生命が19日に発表した「夏に関するアンケート調査」の結果がエコノミストや金融市場の一部で話題になっている。今夏の消費について20~50代の男女に「夏休みに使うお金」について聞いたところ、全体の平均額が昨年に比べ1万5743円少ない6万8071円だった。昨年から2割近く減って、2006年に調査を開始して以来の最低水準を大幅に更新する結果になった。特に昨年は9万755円と財布のヒモが緩かった女性が、今年は6万3298円と3割超の支出カット。節約意識が急速に高まったことが明らかになった。

 明治安田生命の小玉祐一チーフエコノミストは、「5月の10連休でレジャー等にお金を使ったのに加え、10月には消費増税も控えているため」に節約意識が高まったと分析。加えて「『老後の資金問題』が話題になっていることで、中長期的な貯蓄への意識が高まっている可能性も」と指摘した。いずれにしても、余計なお金は使いたくないという意識が急速に高まっていることが分かる。

 さらに「デフレ脱却」つまり物価高が、節約意識を強力に後押ししている。景気が悪いのは物の値段が下がるデフレが原因などと、しばしば言われた日本経済だが、実はこのところの物価は上昇基調だ。総務省が毎月発表している消費者物価指数を見てみよう。

 消費者物価指数は全国で幅広く物の値段を調べて、物価の目安を知ることができる便利な数値だ。現在は2015年の平均を100として算出している。特に変動の激しい生鮮食品を除いた「生鮮食品除く総合」という数値を見るのが一般的。これを見ると2016年はほぼ100を下回って推移しており、確かにデフレだといえる。しかし、2017年に入ると右肩上がりに転じている。今年の4月と5月は101.8まで上昇。ざっくり言って、ここ2年半は年0.9%のペースで物価が上昇しているのだ。

 80年で物価が2倍になるというペースだというと、たいした物価上昇と思わないかもしれない。だが問題は何が物価上昇をけん引しているのか、ということ。内訳を比較しやすいように総務省は、分野別の指数も発表している。ここで最も上昇が目立っているのは「生鮮食品除く食料」という分野だ。現時点で最新の6月統計では104.1を記録し、現在基準(2015年を基準にした数値)としては過去最高を更新した。おおむね年2%の物価上昇。36年で2倍になるというペースだ。買い物の頻度が高い食品の価格上昇は、物価高を強く実感させる。特に女性の節約意識が高まっているのも、このためだろう。

 生鮮食品も含め、食品はほとんどが軽減税率の対象だ。消費税率は8%で据え置きになる。酒類こそ10%に上がるが、このところ人気が高まっているノンアルコールビールは8%のまま。節約志向の高まりに加えて、その主因として関心が向かっている食品の消費税率が変わらないとなると、「消費税率が上がる前に何かを買っておこう」という気持ちにはなりにくいだろう。

 むしろ「キャッシュレスポイント還元」が始まる増税後まで買い控え、といった可能性すらあるのではないか。したがって景気の変わり目として気にかかるのは、キャッシュレスポイント還元の有効期限を迎える2020年6月末だ。その24日後には東京五輪の開会式が控えている。消費税率10%を適用する応援グッズは、もしかして売れ残ってしまったりするのだろうか。

(まいどなニュース特約・山本学)

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