親戚からの性被害「なかったこと」に 心に傷抱え40年 その時親ができることは

 世界的に性暴力の撲滅が叫ばれ、被害を受けた女性たちが声を上げ始めています。何十年も心の奥底にしまい続けてきた人も多く、日本でも、被害を訴えること自体がタブーとされ、被害者を追い詰めてきました。もし我が子や周りの子が被害を訴えたとき、大人ができることとは-。40年以上、傷を抱え続ける女性を取材しました。

 「息が出来なくて苦しくて、嫌だった。母に見つけてもらって『やっと終わる』と思ったんです。なのに…」。さちえさん(54歳、仮名)はぽつり、ぽつりと語り始めた。

 3歳のとき父を亡くし、母と弟と3人で、母の実家に身を寄せた。だが4~5歳のころから、六つ上の「お兄ちゃん」に人気のない場所で服を脱がされ、上に乗られて体を触られるようになった。最初は意味が分からず「プロレスの技なのかな、と思った」というが、「お兄ちゃん」が中学生になると行為はエスカレートした。実際に性行為をされたわけではなかったが「半裸で寝転ぶのが痛くて、荒い息遣いが気持ち悪かった。でも『誰にも言うな』と言われて怖くて…」

 「いたずら」が終わったのは9歳のときだった。現場を母と「お兄ちゃん」の母親に目撃されたのだ。「お兄ちゃん」は連れて行かれ、なぜか母も一緒に行ってしまった。「私は泥だらけで傷だらけだったのに、母は『大丈夫?』とも言わず、後で一言『もうお兄ちゃんと遊ばないように』とだけ」とさちえさん。「その瞬間に分かっちゃったんです。ああ、この人は私の味方になってくれる人じゃないんだ、って」。「お兄ちゃん」も怒られた様子はなく、いたずらは「なかったこと」になった。

 その後、さちえさんは週に何度も、夜、金縛りに遭ったように体が動かず、声が出せなくなった。症状は大学進学のため親元を離れるまで続いた。今は夫と暮らすが、経験を話したのは20年前、友人に1度だけ。その友人には「お母さんも大変だったんだろうね」と言われ、それ以上話はしなかった。母も健在だが、その話題が出たことは一度もない。

 最近になり、性被害を告発する「#MeToo」運動や性暴力撲滅を訴えるフラワーデモに接し「自分のためにも」と、声を上げた。参加者たちはさちえさんの話にうなずき「実は私も」という人もいた。さちえさんは初めて「受け入れてもらえた」と感じ、と同時に気付いた。「私にとっては、被害自体より母に置いていかれたことが、ずっと心に重くのしかかっているんでしょうね。母も経済的にも精神的にも余裕がなく、世代的にも性的なことはタブーだったとは思う。でも、9歳の私は、あのとき母にどうして欲しかったのかな…」

 警察庁の犯罪統計によると、2018年の13歳未満の子どもの被害認知件数は強制性交等が151件(前年比60件増)、強制わいせつが773件(同180件減)。性的虐待を含む児童虐待事案は増加の一途をたどる。親しい間柄の場合など、数字に現れない被害も少なくない。もし、子どもが被害者や加害者になったら、何ができるのか。立命館大学総合心理学部の仲真紀子教授(発達心理学)に聞いた。

 -子どもが「被害に遭った」と打ち明けた場合、どう対応すべきですか?

 「大人も気が動転し『いつ?どこで?本当に?』など聞きたくなりますが、問い詰められると子どもは『自分が悪い』と思ってしまいがち。まずは『よく話してくれたね』『話してくれてありがとう』と声を掛け、子どもが安心できることが第一です。その上で、その告白自体を『いつ』『どこで』『どういう状態で』受けたかをメモし、子どもが自分で話せるようなら『誰が、どうした(何が、あった)』程度を聞き、警察に通報してください」

 -いろいろ聞くのは逆効果ということですか?

 「はい。子どもが『触られた』というときに『胸は?』『お尻は?』などと誘導して聞くのは記憶を混乱させてしまい、事実の解明や犯人逮捕につながらないこともあります」

 -身内や親しい人からの被害だと、親も混乱してしまいそうですが。

 「一番いけないのは、『本当なの?』と疑ったり、『秘密にしよう』と口止めしたり、『ぐずぐずしているから』などと責めることです。子どもの回復は親や打ち明けた人がどれだけ支えられるかに大きく依存します。親もかなりの緊張状態に置かれますし、『この子の言っていることは正しいの?』と不安になりますが、加害者側についてしまうと被害を受けた子の傷はさらに深くなり、それ以上口に出せなくなります」

 -性的虐待なども同じ構図ですね。

 「特に実父や義父からの性被害では、母親の側が夫との関係を優先してしまったり、『娘が誘った』などと疑ってしまったりすることがよくあります。でも、頼りになるのは母親だけ。母親への支援はかなり重要なテーマです」

 -加害側だった場合はどうでしょう。

 「非常に難しい状況で親もショックだと思いますが、『ここで見つかって良かった』と思うことが大切です。その上で相手方への謝罪はもちろん、児童相談所などに相談し、矯正(リハビリ)のためのプログラムなどを受けてほしい。未成年者の場合、単なる性的衝動だけではなく別のところで不安など心理的問題を抱えている場合も少なくありません。早い段階で、きちんと心理教育やカウンセリング、性教育をすることが再犯防止に有効です」

 -親の側も、勇気が必要ということですね。

 「はい。大人になって小児性愛などの傾向を示す人の中には、子どものころに友達や妹などに加害行動を試し、そこで明るみに出なかったからそのままずるずると…という人もいます。もし加害行動を見つけたら、怒るのではなく『一緒に考える姿勢』で『何がきっかけとなったのか、その結果何が起きたのか、何を変えればしないですむか』など話してみてください。親が抱えきれなければ、スクールカウンセラーや児童精神科のクリニック、匿名の電話、ネット相談などもあります。子どもは大人が考えるよりも、大人の気持ちを忖度しています。言えなかったことを話せたことで、親子の関係が良くなる例もたくさんありますから、よい未来を見据えて、勇気を持って臨んでいただければと思います」

(まいどなニュース・広畑 千春)

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