田舎の景観をぶち壊す怒涛の貼り紙攻勢…道の駅「命懸けでやっている」と主張

 深刻な経営難から一時は廃業寸前にまで追い込まれていた兵庫県北部の香美町にある道の駅「あゆの里矢田川」が、なりふり構わぬネット戦略で“延命”に成功し、以来、独特の存在感でカルト的な人気を集めている。先日、所用があって香美町を訪れた際、数カ月ぶりに同道の駅を覗いてみた。そこで目にしたのは、自他共に認める「変人駅長」こと阿瀬大典氏による、過剰なまでの貼り紙攻勢。しかも、その内容がどれもしょうもないものばかりなのだ。野暮な質問ですけど、これ、せっかくの美観を損ねていませんか?

 「潰れそうなんだけれども」

 「みそ」

 「熱烈歓迎トイレ」

 「キャンプ可キャンプ可キャンプ可キャンプ可キャンプ可」

 「トイレに来てくれたん?ありがとう」

 「カメムシに負けるな!」

 これは、同道の駅の建物や周辺の壁という壁を埋め尽くす貼り紙に書かれた文句の一例だ。「なるほど、トイレ利用だけでも立ち寄ってもらいたいんだな」と微笑ましく思えるものもあれば、「潰れそうなんだけれども、それがどないしてん」と意図を図りかねるものまで、とにかく数と種類だけはやたらにある。何か言葉を思いついたらすぐプリントして貼っている、という印象だ。

 ちなみにこの道の駅、周囲を山と川に囲まれた、本当に長閑で素敵な場所にある。建物も古民家風で、食堂には囲炉裏も。さらに、建物裏の河川敷はRVパークとして整備されており、週末などには遠方からの来訪者も多い。貼り紙は、そんな道の駅の魅力を台なしにしてしまいかねない。証拠写真を押さえてから、後日、電話で阿瀬氏の見解を質した。

   ◆   ◆

 -見ましたよ、貼り紙。

 「ありがとうございます。情熱の爆発です」

 -褒めていません。景観を損ねていると批判を集めそうで心配なのです。もちろん私はそんなことは思っていませんが。

 「確かに苦情も来ています。雰囲気と合わへんぞ、とか、雰囲気ぶち壊しやぞ、とか。でもこっちも命懸けてやってるんで。一歩も譲れません。こんなにもわかりやすく情熱が伝わるツールはありませんからね」

 -(なんてきれいな目をしているんだ…)とはいえ、さすがに多すぎでは。

 「今ざっと数えてみたら57枚ありました。貼り紙は情熱が伝わりやすいですし、とにかく余白を埋めたいんですよ。壁だけでは足りず、掲示スペースも増設しました」

 -何を言っているのですか。

 「特に注目してほしいのはトイレです。とにかくうちのトイレを使ってほしい!こんなにもトイレを推している道の駅がほかにありますか?この情熱が少しずつ実を結び、今やトイレはうちのドル箱に成長しました。食堂や売店と比べてもぶっちぎりで一番利用が多い場所、それがトイレです」

 -とても素晴らしい姿勢ですね。

 「それから、『キャンプ可』の貼り紙も見てもらえましたか?意外と知られていないんですが、うちはキャンパーも大歓迎。これを貼ると、もっと人が来るのではないか。そんな予感があります。そろそろ切ってもいいですか?今日はテレビの取材が入ってるんですよ」

 -お忙しそうですね。

 「我が香美町は『ワールドマスターズゲームズ2021関西』のオリエンテーリング競技の会場になっています。これからますます忙しくなりますし、貼り紙などで競技のお知らせもどんどんしていくことになると思います。また季節もの、例えば『アイスクリームを買え』という感じの貼り紙も展開します。とにかく集客!集客!ですよ。そのためには手段は選びません」

 -さようなら。(まいどなニュース・黒川裕生)

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