関西で唯一 究極の牛乳「特別牛乳」に込める京都の酪農家の思い

 「特別牛乳」という牛乳をご存知でしょうか。牛乳パックに書かれた「牛乳」や「加工乳」などと同じく国の定めた規格で、さく乳からビン詰めまでを同一敷地内で行い、成分や殺菌方法なども厳しく決められた、その名の通り「特別」な牛乳。現在日本では4か所しか製造されていません。関西で唯一の牧場が、京都府木津川市にある「クローバー牧場」。3代目の松本徹さん(49)が特別牛乳にこだわり続ける思いとは-。

 特別牛乳を製造できるのは国の審査を経て「特別牛乳さく取処理業」の資格を得た酪農家だけ。生乳100%で成分無調整の「牛乳」のうち、「無脂乳固形分8.5%以上、乳脂肪分3.3%以上、殺菌する場合は63~65度で30分」などの基準をクリアしたものだけが、「特別牛乳」として販売されます。

クローバー牧場では現在、30頭ほどのホルスタイン種を飼育しています。牛舎でさく乳した原乳は真空管を通ってタンクに送られ、低温殺菌したのち、容器に詰められます。この間、空気に触れることはありません。空気に触れると酸化して栄養分も味わいも落ち、菌も増えてしまうからだそうです。

さっそく飲んでみると、口当たりは意外とあっさり。優しい甘さが広がり、舌にはクリームの濃厚さも。なのに、全くのどに残らないのが不思議な感覚です。徹さんの妻雅世さん(54)が、「これが、絞ったままの牛の乳=原乳に一番近くて、おいしさはもちろん、ミネラル分やたんぱく質など栄養バランスも抜群なんですよ」と教えてくれました。後日談ですが、二日酔いにも効いた気がしました(あくまで記者の個人的感想です)。

  ◇  ◇

 木津川市は、京都府の最南端で奈良県との境にあり、人口約7万7千人。田園地帯や茶畑に隣接しニュータウン開発も進んでいます。クローバー牧場は小高い山間にあります。この地で酪農を始めた徹さんの祖父(故人)は、役所の獣医師として旧満州で働いていました。終戦を迎え、家族と命からがら日本へ引き揚げてきたとき、配給でもらったおにぎりの味が忘れられず「これからは食の大切さを伝える側になる」と決意したそうです。

 牧場の跡継ぎとして育てられた徹さんは高校から酪農の道へ進み、酪農大国・米国のネブラスカ州にも留学しました。ですが、帰国後に待っていたのは生産調整や乳製品自由化の嵐。価格も低迷する中、原点に立ち返り「自分たちで良いものを作り届けたい」と特別牛乳に挑みました。

 最初はいばらの道でした。借金して敷地内に処理施設を作り、衛生管理をし、全く素人だった営業や販路の開拓、宅配まで手掛けなければなりません。牛乳は「価格の優等生」だった時代、900ミリリットルで700円するクローバー牧場の特別牛乳は、百貨店でも「なんでこんなに高いねん」とたびたび苦情を言われたといいます。

 それでも、徹さんはあきらめませんでした。ストレスは乳質を下げるため牛がお腹を空かせないよう、1頭ずつ調子を見ながら1日6回、厳選した3種類の牧草と野菜の飼料を与えます。水はいつでも飲めるようにし、暑いときは扇風機とミストを使って冷やします。首を振る、腰を下ろす…。「毎日見てるんで、体調が悪いのも一目で分かる」と徹さん。「世話はしんどいけど、牛が元気で良い乳を出してくれて、お客さんが飲んで喜んでくれたら、こんなにうれしいことはない」と微笑みます。雅世さんも営業・広報担当として特別牛乳のおいしさを伝え続け、京都市内のホテルやレストランのほか全国から注文が寄せられるようになりました。夏場には生産が追い付かないこともあるそうです。

 後継者はまだいません。いつか「やりたい」という若者が現れることを願いつつ、徹さんと雅世さんは牛乳を作り続けます。

(まいどなニュース・広畑千春)

■京都の特別牛乳(900ミリリットル810円、500ミリリットル520円)のほか、ヨーグルト(300ミリリットル350円)やアイス(ミルク350円、チョコ、いちご各450円)。通信販売もできる。https://www.cloverfarm.or.jp/index.htm

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