お受験失敗の子どもに「何と声をかけたらいいのか」…尾木ママに聞く

 中学受験シーズンも一段落。身の回りの親御さんの間でも、子どもさんの合否が話題になるようになりました。一方で、不合格になったことをどう受け止めたらいいのか、悩んでいるという声もよく聞きます。SNSでも「小学生の挫折には辛すぎる」「何と声をかけたらいいのか」などの投稿がみられます。親として中学受験の結果にどう向き合えばよいのかを「尾木ママ」こと教育評論家・尾木直樹さんに聞きました。お話は受験から大きく広がって、AI全盛の近未来に向けて子どもたちが何を学んでいくべきなのか-というテーマに。近年の教育改革にあわせて「中学受験」の内容も大きく変わっているそうですが、変革の流れの中での受験の位置付けがわかれば、子どもと向き合うときの参考になりそうです。

  ◇  ◇

 -中学受験シーズンも一段落しましたね。合否も決まって、親としてどう受け止めたらよいか悩む声もよく聞きます。

 「受験は合格・不合格が最終目標ではありません。受験はさまざまな力をつける絶好のチャンスですが、受験を通して何を学んだのかがとても大切です」

 -しかし、合否は気になりませんか。

 「そういったお話の前に、保護者の方々には知っていっていただきたいことがあります。それは、教育が大きく変わる中で、中学受験も大きく変化してきていることです」

 -えええっ、どういうことですか。

 「たとえば入試問題が4年ほど前から大きく変わってきています。これまでは学んできた知識を聞くようなものが多かったですが、最近は、男性がスーパーの前を通り過ぎてコンビニに入る30秒ほどの動画を見せて『男性はなぜコンビニに入ったのか』と聞くような問題が出されています。300人いれば300通りの解答が存在する、思考力を問うような内容ですね。去年は東京の私立最難関の開成中学でも出題され「開成ショック」として大変話題になりました」

 -なぜ変わってきているのですか。

 「2020年度から学習指導要領が変わります。あわせて大学入試もこれまでのセンター試験から新たな『大学入学共通テスト』に変わります。これまでの知識重視から、『思考力』『判断力』『表現力』などを評価する方針に変わりますが、その流れにいち早く対応しているんです」

 -求められている学力が変わるということでしょうか。

 「これまでは人よりも多くのことを知っていることが大事で、大学入試でも知識の量をテストし、そこにつながる中学校でも同じような試験がされてきました。しかし、今は調べることはコンピューターやAI(人工知能)がやってくれる時代です。私だってiPhoneのSiri(シリ=音声アシスタント)はよく使います。しゃべりかけるだけで、いろいろなことがすぐわかります。そんな時代に問われる力はこれまでとは大きく違ってきますね」

 -自分たちの経験してきた学校生活から考えると、問われる学力が変わるなんて、遠い未来のように思えてしまいますが…。

 「駅のコンビニは無人化に向けて実験が進んでいますし、もうすぐクルマは自動運転になるでしょう。その一方でメガバンクでは人員の大リストラが打ち出されていたりします。2030年には今ある仕事の49%をAIがカバーしてしまうといわれていますし、キャリアデザインが抜本的に変わってしまう世の中が、もうそこまできています。OECD(経済協力開発機構)の『Education2030』というプロジェクトチームが、近未来の教育について提言していますが、そこでは『AIを活用する人』という次元からもっと進んで、『どのようにAIと共存できる人をつくるか』というのが人類の課題になるとしています。文部科学省の考えている日本の教育改革も方向は同じですが、知識をこつこつと基礎から積み上げていくような勉強は、もう時代遅れです」

 -それでは、これからどんな学力が必要なのでしょうか。

 「『大学入学共通テスト』にヒントがあります。そこで問われているのは『情報の活用力』です。試行されたプレテストの内容が公開されていますが、数学の問題は、資料を読み解いて答えるために社会の問題のようだったりします。国語の問題はA4の用紙で50ページ以上もありました。しかも第1問から記述式です。そんなに大量の問題を読みこなし解答することができるのか、という声もあるでしょう。しかし、そのような試験を通して『AIができないことができる力』を問うているのです」

 -そんなに大きな変化がすぐそこまで来ていたとは。

 「教育改革のことは、もっと多くの人たちに伝わるべきだと思うのに、まだまだ知られていない気がします。教育界でも変化に対応できていないところがあります。お子さんが受験対策で塾に通っていたのであれば、はたしてそこは新しい受験に対応できていたのか。昔ながらのことしか教えていない古い塾に通ったために、合格できなかったお子さんもいるかもしれません」 

 -親としても、これからの社会の変化をみすえて、子どもがどのようなことを学んでいくべきなのか、考える視点が必要かもしれませんね。しかし…合否はやはり気になりませんか。

 「受験するときには、それぞれの学校の良さを整理して、合格したら取り組みたいことを考えておくことが大事ですね。中学受験で受けた学校すべて合格できず、公立学校に行くことになっても、公立ならではの良さもあります。通学時間が短くなりますし、いろいろな友達と過ごして社会経験を広げられるかもしれない。『リフレーミング』ともいいますが、発想の転換がとても大切です。子どもも親も変わっていかないといけないのです」

(神戸新聞・川上隆宏)

関連ニュース

ライフ最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング

    話題の写真ランキング

    リアルタイムランキング

    注目トピックス